マB
□伝わらないもの
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キーナンが文通を始めたようだ。
相手は顔も名前も、性別さえもわからない。
分かっているのは、その文通相手が魔族だということくらい。手紙でお互い魔族だと告白したらしい。
3日に1通届く手紙は、可愛らしい花柄の封筒だったり、高そうな封筒だったりと様々だが、キーナンにとってはいい暇潰しになっているみたいだ
なんせ、ここ最近は暇続きで用心棒の仕事など一切入ってこない。
平和なのは良いことではあるが、オレ達には大問題だ。
金を貰っているわけではない。ただ、人助けってのを毎日欠かさずにやってると、いざ暇になった時にどうすりゃいいかわからなくなるんだ。
「(何か面白ぇ事起きねーかな…)」
ソファに寝転がり天井を見上げても、何も思い浮かばない。
今日はベルマ達も出かけている。法石を調達しに大シマロン管轄の鉱山に行っているようだが、おそらくついでに宝石も採ってくるのだろう。
ベルマといい、女は光り物が好きなんだなと改めて思った。
「(それにしても、本当に暇だ。身体がなまっちまう)」
「アーダルベルト様、少しよろしいでしょうか」
「んお?!脅かすな!」
いつの間にかキーナンが来ていて、オレはかなりびっくりした。
奴は例の可愛らしい猫模様の手紙を持っていた。心なしか表情が曇って見える
「どうした。文通相手が会いたいとかいってきたか?」
「はい」
冗談で言って、大当たりとはな。
「いいんじゃねぇか?会ってとっとと結婚しちまえよ」
「まだそんなにやりとりしてませんし、見知らぬ相手との結婚なんて考えてません」
「堅い事言わずに会って来いよ、どうせ暇なんだしな」
「…わかりました。会うだけ会って来ます」
――――――――――――――
数日後、キーナンは豚みたいなあみぐるみを抱えて帰ってきた。
相手の名前を聞くとはぐらかされたが、容姿については緑色とかわけわからん事を言ってきた。まさか緑色の肌の奴だったのだろうか?
「そのあみぐるみは貰ったのか?」
「はい。頂きました」
「白い豚なんて…どんな感性持ってやがる」
「ま、まぁ…感性なんてそれぞれ違いますから」
「で、どうなんだ」
「どう、と言いますと?」
オレの目的は、キーナンに文通相手と結婚してもらう事(できればだが)
あみぐるみ作成が趣味な家庭的な奴なんてそういない
だが、キーナンは結婚は絶対にないと否定してきた。
「何故、あみぐるみが趣味な可愛らしい奴だったのだろう?」
「可愛らし………くはないですね。どちらかといえば、苦労性で渋い…?」
苦労性なのは恐らく、緑色の肌のせいだろう。その生活の中で渋い趣味とあみぐるみ趣味を持つようになったのではないかとオレは推測する。
そんな大人しめの奴が友達がほしくて文通を始めたのなら、手を差し伸べてやる必要もある。
「そいつとは次いつ会うんだ?」
「今回限り会うつもりは…」
「馬鹿野郎!そいつは文通だけじゃ物足りなくなって会いたいといってきたんだ、金輪際会わんなんぞオレが許さねぇ!」
「そ、そうおっしゃられましても…あちらも合意の上ですし」
「便箋をよこせ、オレがもう一度会えるようにしてやる」
キーナンから新しい便箋をひったくり、もう一度会ってくれそうな内容を書いてみる。もちろん字体に気を付けて書かねぇと、別人だと気付かれてしまうからな、一文一文丁寧に気持ちを込めて…
「出来たぞ。早く鳩飛ばして来い」
「送らないと駄目ですか?」
「せっかく書いたんだ。もし途中で捨てたりしたら……わかってるよな」
「……はい」
渋々と鳩小屋へ向かうキーナンを見送ったオレは、白い豚のあみぐるみを手に取り、文通相手の喜ぶ様を想像した。
「(ま、多少は文章に違いはあるが、大丈夫だろう)」
眞魔国・某所―――――。
『この前はありがとうございました。あなたに会えてとても嬉しかったです。白い豚のあみぐるみ大切にします、また会えたらいいですね』
書類の山を目の前に文通相手からの手紙を読み終えた、あみぐるみが趣味で緑色の渋い男は、ぽつりと呟いた
「………あれは ネコちゃんだ」
あとがき
文通相手はまさかのあの方でした(笑)
色んなキャラと意外な形で交流してたら面白そうと思いまして、現代風にいう顔が見えない出会い系メールだと思っていただければ…