マB
□記録係は語る
1ページ/1ページ
砦中に放置された干からび寸前のカボチャ
数日前に行われた秋の仮装収穫祭のものだろう。
アーダルベルトは当日いなかったため参加できなかったが、心の底では参加できなくてホッとしている部分もあった。
だって毎回女装させられるのだから仕方がないっちゃあ仕方がない。
今年の秋の仮装収穫祭の様子だけは気になったアーダルベルトは、砦の記録役(日直が日誌を書くような感じの役)のところに足を運んだ。
「よう、ジリー」
「おやおや、アーダルベルトの坊っちゃんいつお戻りに?」
「その‘坊っちゃん’ての止めろよな」
ジリーは訳あって眞魔国からこの砦にやって来た魔族の男で、実はアーダルベルトを幼い頃から知っている唯一の人物である。
物知りで温厚で皆に慕われる、まさにおじいちゃん的な存在だ。
アーダルベルトは‘ジリー’と呼んでいるが、皆は親しみを込めて‘ジリーじいちゃん’と呼んでいる。
「秋の仮装収穫祭どうだったかと思って聞きに来た」
「そういえば坊っちゃんは留守でしたなぁ」
「だから坊っちゃんて呼ぶなって言ってんだろっ」
「まあまあ、少しお待ちくださいよ」
高く積み上がった日誌から秋の仮装収穫祭の日を探すようだ。
この日誌はジリーが砦に来てから毎日欠かさず書かれている。
アーダルベルトが留守の時に起きた事や来訪者、さらには一日の献立まで書いてあるから驚きだ。
「なぁジリー、献立は書かなくてもいいんじゃねぇか?」
「いえいえ必要ですよ。例えばこの日…見張りのジーンがどこからか捕ってきたウサギを食べたネラルが翌日腹を壊しました」
「原因が早期にわかるからか」
「それと好き嫌いなく食べているかなどね」
「それやっぱりいらないだろ」
「お、あったあった。秋の仮装収穫祭の日の日誌だよ」
「ありがとな」
日誌を開くとジリーが思い出し笑いをしながら語り出した。
アーダルベルトは日誌を開いたまま話に耳を傾ける。
「今回の秋の仮装収穫祭は大変だったよ、お菓子を作れる子が少なくてイタズラの嵐だった」
「イタズラの嵐?」
「うん。刃物が飛び交ったり、イ人を縛って火あぶりにしようとしたり、暗殺ごっことか言ってイタズラしあってたりね」
それはイタズラと呼ぶべき行為ではない。
本物の悪い山賊が自分達の住処でやらかす所業…あ、ここも一応山賊の住処だった。
自分が留守の間の出来事を聞き、頭を抱えるアーダルベルトを気にもせず続けるジリー。
実はちょっと腹黒い。
「そうそうベルちゃんに可愛い耳を付けてもらっちゃってね、あれは多分ネコだろうね」
「抵抗しなかったのか?」
「女性に抵抗なんて出来ないよ。おかげで可愛い侍女用の服まで着せられちゃって」
「そこは抵抗しろよ。で、その後どうしたんだ?」
「ベルちゃんが帰った後に脱いだよ。でもそのまま返しても面白くないでしょう?せっかくの秋の仮装収穫祭ですのに」
「そ、そうなのか?」
「殴り合いの喧嘩を仲裁していたキーナンに無理矢理着させてあげたよ」
「おい!仲裁を邪魔してどうする、余計殴り合うだろうが」
「それが変な空気になって、殴り合いしてた二人がぶっ飛ばされてたよ。私も蹴り食らってケツがヒリヒリしてる」
「すまん、後できっちり言い聞かせておく」
「いやいや、しばらくは彼の反応が面白くて仕方がないから大丈夫さ」
「面白い…?」
「昨日仕返し的なものをしたんだよ。ははっ」
「何したんだ?」
「ふふ、秘密だよ。さて、どこまで話したかな」
「あー、いやもう止めにしとく。また今度頼む」
「はいな。坊っちゃんお相手ならいつでも話しますよ」
ジリーの記録小屋から出ると干からび寸前のカボチャは片付いていた。
そんなに時間が経っていたのかと驚いていると、向こうからカボチャを運ぶ人影が来るのが見えた。
重そうだから手伝おうと駆け寄ってギョッとした。
「なんつー格好してんだお前は!」
「好きでこんな服を着ている訳じゃないです」
ジリーから仕返しを食らったキーナンが干からび寸前のカボチャを片付けていたが、服装がアーダルベルトを驚愕させた。
先程話していたベルマに未返却の服で間違いない。
「着替えろ、今すぐに!」
「…それが…自分のはジリーさんに持ってかれてしまいまして…」
「ジリー!!」
アーダルベルトの声を聞きながら、今日起きた出来事を日誌に書き加えるジリー。
聞こえない聞こえない。
アーダルベルトの坊っちゃんの声なんて一切聞こえなーい
あとがき
すみませんでしたー!!
ハロウィンss書き直してたらハロウィン過ぎてて、その…もにょもにょ
てなわけで、ハロウィン後をssにしてみました。次こそは必ずハロウィン当日を書けたらいいなー