マB

□すきんしっぷ
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「いたっ」



今日はベルマが食事当番。得意な料理を作っていたが、少しボーッとしてしまい包丁で指を切ってしまった。

指から流れ出る血を洗い流すと同時に痛みに涙が出た。



「…っぅ」



止まらない血をなんとかしようとするが止血できそうなものは見つからない。


自分の服を破こうとした時、買い出しに行かせていたキーナンが頼んだものを持って帰って来た。



「ぁ…おかえり、ありがとう。そこ置いといて」



サッと怪我した指を隠すベルマ。

その行動が彼には逆に怪しく見えたようで、ベルマに近寄って隠した右手を掴んだ。



「きゃっ」

「怪我したのか…」

「べ、別にこれくらい大丈夫よ」



ダラダラと流れる血と痛みで涙目になっている彼女の大丈夫は説得力がない。

キーナンは右手を掴んでいた手を放すと、何かを考えた後、いつも着けているスカーフを外してベルマの怪我した指に巻いた。



「ちょ…あんた、それ…!」

「洗ってあるから大丈夫だ」

「そういう問題じゃなくて…!」

「止まるまでそれで……包帯とって来る」

「あっ…」



手首まで巻いて取れないようになってるとはいえ、今の段階ではただの応急措置。止血してしまえば、あとは大丈夫、命に関わることもない。


が、ベルマは自分の心配よりも自身に巻かれた布の心配をしていた。

薬箱を持って来たキーナンに申し訳なさそうに手当てしてもらいながら、スカーフのことを聞いてみた。もしかしたら大切なものだったのかもしれない。




「ねぇ…これ大切なものなんじゃないの?」

「別に」

「だってあんたいつもこれ身につけてたじゃない」

「まぁ…初めてあの人に貰ったやつだったからな」

「あの人って…あの人?」

「他に誰がいるんだ」



途端にベルマは泣きながら怒りだした。



「あんたバッカじゃないの!?なんでっ、そんな大切なのをあたしなんかの手当てに使うのよ!」

「なんでお前が怒るんだ?」

「あ、あたしもわかんないよ!」



ぽろぽろと涙が頬を伝って、ベルマの服を濡らしていく。

手当ては既に終わっている。これはけして痛みで泣いているわけではない。



いつまでも子供のように泣く彼女をキーナンは困り果てた。今ここで誰か帰って来たら説明できない。できたとしても言い訳と思われてしまうのがオチだ。

考えた果てに思いついたのは、ぎゅっと抱き締めて落ち着かせること。以前どこかで聞いたのを思い出した。



「ひゃっ」



いきなり抱き締められたベルマは泣くのを忘れて顔を真っ赤にした。そして照れ隠しの怒りもプライスレス



「な、にすんっ…バカッ///」

「落ち着かせようと」

「落ち着くどころか逆効果よっ///」

「…さっきから何怒ってるんだ?」

「あんたの行動に怒ってんの!!」

「顔赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」

「ちょっ…」



彼女と彼との距離、およそ3センチ




「熱はないな」

「ぁ…ぅああぁ…////」

「ベルマ…?大丈夫か?」

「ぴゃああぁあぁっ」 ゴンッ

「ぐっ」 ドサッ




―――――――――‐‐‐‐





「帰ったぞ、飯は出来てん…のか…」



帰って来たアーダルベルトが見たのは、床に寝そべるキーナンとさらにその上で寝そべるベルマだった。

なんで寝てるんだと疑問も浮かんだが、アーダルベルトが一番先に思ったのは、何故ここで寝たのか。



「まさかこいつら」



思っていたことを口にだそうとした時、キーナンとベルマが起きた。



「……お前いきなりあれは酷くないか?」

「あんたがあんなに近付いたのが悪いんだからね」

「近付いた…?この距離で?」

「だからっ///近いって言って………ぁ」

「ぁ?……あっ」



見下すアーダルベルトに硬直する2人。いつもより凄味があるのは場所がみんなの寛ぎの場…リビングだったからだ



「お前ら、やるなら自分の部屋でやれ」

「ち、違うわよ///」

「誤解です」

「ただキーナンのやることが、あたしをこんなにするというか」

「俺のせいにするな」

「本当のことじゃない。自分の大切なものをあたしに…」

「いやだからあれは」

「あー…お前ら、もういいか?」

「すみません」「ごめん」



しゅんとおとなしくなるベルマとキーナン。


アーダルベルトは怒っているわけではない。むしろ二人の関係がどの辺までのものなのか、はらはらしていただけなのだ。



「あのな、仲良くすることには別に構わねぇけどよ。場をわきまえろ」

「仲良く、というと?」

「俺に言わせんなよ……そうだな、さっきみたく床のど真ん中で抱き合ってたりとか」

「ちょちょちょ、ちょっと待って!!」

「なんだ?」

「私達抱き合ってなんかいないよっ」



しかし、あの寝ていた状況を考えると事後にも見えなくもない。

アーダルベルトにはベルマが必死に事実を隠そうとしているように見えていた。


抱き合ってたんじゃないのか?と聞かれたキーナンは、記憶を遡ってみているみたいだが、ベルマに頭突きされて以降の記憶は一切ない。気絶していたのだから当たり前だが



「率直に聞くぞ?お前たちの関係はなんだ?」



いくら聞いてもらちが明かないと考えたアーダルベルトは率直すぎる質問をなげかけた。

その質問にベルマもキーナンもきょとんとした後



「仲間だけど?」

「それ以外何かありますか?」



何当たり前なこと聞いてんの的な
答えが返ってきた。


アーダルベルトは深いため息をついたあと、疲れたように自室へ入って行った。


残された二人は顔を見合わせ



「アーダルベルトどうかしたのかな」

「きっと疲れていらっしゃるんだ。何か疲れが取れそうなものを作ってさしあげよう」

「あんたが作るの?」

「…俺が作れるわけないだろう」

「なら一緒に作りましょうよ。私ケガしてるし」



二人で作れば怖いものなんてない、はず。

料理上手なベルマの手の代わりにキーナンが作り、料理下手なキーナンの代わりにベルマが指示&監視をする。

これでアーダルベルトに美味しいご飯を食べさせてあげられることができる。



「この野菜硬いから私も力貸すわ」

「いい、一人でできる」

「ダーメ!ここは私に頼りなさい、あんたまでケガしたら何も作れないじゃない」



一般的なカボチャより一回り大きなダイカボチャに刃を入れていく。その姿はまるで、結婚式のケーキ入刀…



「そういえば初めての共同作業だな」

「言われてみればそうかも……あ、煮えたみたい。味見してみてくれない?」



トマトを使った牛肉の煮込み料理。隠し味にチョコレートが入っている、ベルマの創作料理の一つだ。



「…まぁまぁかな」

「なにその微妙な感想…ちょっと私にも食べさせて」



あーん、とまるで本当の恋人同士にみえてしまう行動をする二人



そして自室に戻ったふりをして、実は柱の陰で見守っていたアーダルベルト




「(なんであいつら恋愛まで発展しないんだ?!)」





自由の砦七不思議の一つ

『恋愛に発展しないキーナンとベルマの関係』





あとがき

異性と意識してない二人に振り回されるアー様。
自由の砦七不思議はほかに六つありますが、全部知ってしまうと恐ろしい事が起きます(`・ω・´)

そしてまだコピペができない現実…

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