銀月 パラレル

□眠り姫の憂鬱
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「いいわね月詠、ちゃんと寝てるのよ?」

「…うん…」

自室のベッドの中で、月詠は今朦朧としていた。
サイドテーブルには空のコップと薬袋。そして体温計。
風邪を引いてしまった。しかも39度という高熱だ。どうも昨日の水泳が効いたらしい。
あまり体調よくないな、とは感じていたが、それだけで授業を休むのも…と曇り空の下で冷たい水温のまま泳いでしまったのである。
学校にいる間は別段変わったこともなかったのだが、帰宅した途端倒れこみ、慌てた両親に即座に病院へと担ぎ込まれた。
診断は『夏風邪』。若いから寝ていれば治るだろうと、かかりつけの医者は楽観的に言った。
だが生憎次の日も熱が高く、

「これで登校しようだなんてバカ言うな!休みなさい!」

という父の一声で欠席と相成った。
しん、と家の中は静まり返っている。
ただとろとろと眠い。熱のためかだるさが身体中に広がり、熱くて仕方ない。
冬の風邪なら汗を出すためにひたすら暖かくしていればいいが、夏だと気温が高いせいでそれも不快だ。
天井にあるシーリングファンが、ゆるゆると温い空気をかき混ぜている。

(ああ、今日は国語の課題の提出日じゃったなあ…)

ちらりと机を見やった。そこには昨夜父が投げ置いたカバンが。
だが起き出して中身を取り出すなんて出来ず、仕方なしにまた目を瞑った。
銀八からの評価なんてどうでもいいが、提出日に出しそびれてしまったことがひたすら残念だ。
一眠りして、体調が回復したみたいであれば課題をチェックしよう。
どうせ今日は欠席してしまったのだ、明日…それまでに……
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