10万打記念企画

□見捨てられた姫君と天涯孤独の従者
1ページ/4ページ

夕暮れの街中、一組の男女が石畳の上に腰掛けて空を仰いでいた。
ひとりは銀髪の青年、ひとりは金髪の若い女性。
どちらもすすけた衣服を着、疲れたように目の前を通り行く人々を見つめている。
もう陽は暮れかかっているのにその場から動かない。
みすぼらしい服を着ているというのに、どことなく一般市民とは違う雰囲気を纏っている二人。
はあ、と男性がため息を吐いた。
それを受けて女性が重い口を開いた。

「すまぬな…わっちのためにこんな苦労をさせて」

「いえ、それがオレの役目ですから」

視線をはずしながらぶっきらぼうに言う。

「この国からも支援してもらえないとは…。もう、頼っていくところも無くなってしもうた。それも致し方ないかもしれぬ。治めるべき国も民も無い姫の頼みなど、誰だって聞こうとは思わぬだろう」

自嘲気な言葉が人ごみの中に吸い込まれていく。

「分かってはおったが、目の前でああもはっきり拒否されると辛いのう」

ふふ、と嗤う。銀髪の青年は何も言わない。

「もうよい。これを限りにそなたの任を解任する。わっちを護ってたったひとり、こんな遠い国まで…ご苦労じゃった」

これからは好きなところで好きに生きるがいい。そう言うと、女性は寂しそうに暮れ行く空を見上げた。

「姫は…どうされるのですか?」

「心配いらぬ、わっちは女じゃからな」

え、と青年が問い返すと、真朱色の瞳を意味深に見つめた。

「まさか…」

ああ、と答えて

「気は進まぬが、女がひとりで生きていくためには仕方ない。両親もおらず誰からも庇護されぬ姫の末路など、皆そういうものじゃ」

諦めというよりは哀しみが滲む、その紫苑色の瞳。

「城が落ちたあの時より覚悟はしておった。これからはひとりで生きていかなくてはならぬとな」

金髪の女性は色褪せたスカートをちょい、と引っ張った。
豪奢な絹の衣装や装身具はとうに金に替えた。後に残るものなど殆ど無い。

「銀時、ありがとう。ここまでわっちに付いて来てくれた従者はぬしだけじゃったな。難儀な旅であったが、それももう終わった。これでぬしは自由になれる。どこへでも好きなところへ行きなんし」

そう言うとまとめていた髪に手をやった。ぱちん、と掛け金がはずれる音がした。
見事な金髪が肩に揺れる。それと同時に銀時と呼ばれた従者に片手を差し出した。

「わっちがぬしにやれるものは、もうこれしか残っておらぬ。つまらぬものじゃが受け取ってくれなんし。こんなものでも、売ればいくらかの金になるじゃろう」

それは金で出来たクリップだった。決して派手ではないが出来栄えのいいものだ。王家の印章が透かし彫りにされた、唯一残された姫の証。
受け取ろうとしない青年の手にそっと握らせ、姫はその場に立ち上がった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ