GX

□ばぁかっ!
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風が気持ちいいと感じてくる六月半ば。
この南の島では、六月といえど気温は30度を越えることもしばしばあった。
ブルー寮ならまだしも、こんなオンボロ寮にクーラーというものは無く、授業に使用していた下敷きで首元を扇ぎ、熱さをしのぐことしかできない。


「アイツ……。遅いな……」


翔がイエローに上がってからというもの、同室の遊城十代と一緒に過ごす時間が増えたような気がする。
明日香さんが隣の部屋にいて、今まであまり意識しなかったが、そういえばそうだ。別に恋人同士というわけでもないのに、考え出すと恥ずかしくなってくるものである。

その十代はというと、授業をまともに受けていなかったせいで、こんな熱い中補習をさせられているらしい。
気の毒だが、自分の責任だ。オレは何も言えん。
十代がいないとなると、翔と剣山の姿も見当たらず、狭い狭いと感じていたこの部屋も、なんら広く感じた。


「散歩でもするか」


下敷きを机の上に置くと、文庫本を一冊懐に入れる。木陰で読書でも楽しむことにしよう。
部屋のカギを閉め、空を仰げば、ギラギラと輝く太陽が照りつける。
この時期でこの暑さじゃ、真夏はどうなってしまうのだろうか。考えただけでも目まいがした。

鬱蒼と木々が茂る森の中は、葉っぱたちが影となり、とても気持ちがいい。
んっと伸びをすると、潮の香りが鼻腔を掠めた。

もうすぐそこにあの場所がある。


あの場所というのは、森を出てすぐのところにある海が全貌できる場所のことだ。
そこには大きな太い木が立っており、お昼を過ぎるころには丁度日陰となる。
読書をするには最適だ。

木に寄り添うようにして腰掛け、本を開く。
こうして本を読むのも、ブルーの時以来だ。いつの間にかオレはアイツらに毒されてしまったらしい。って、いかんいかん!
何のためにこんな静かな場所に来たんだ!妄想するために来たんじゃないだろう!

ぺしぺしと頬を平手打ち、本に目線を戻す。
一ページ一ページを読むのに、何だか時間がかかってしまった気がする。
呼吸を整えてゆっくりとページをめくっていると、不意に茂みの奥の方で声が聞こえた。


「あれは、ブルー寮の……。どうしてこんなところに……」


さっと大木の傍に隠れ、見つからないように静かに見る。そこにいたのは、見覚えのある男子生徒と、美しい亜麻色の髪の美少女だった。
その美少女も女子制服に身を包んでいるため、この学園の生徒だろう。何をする気なのかと目を細めて見ると、徐に男子生徒が女子生徒に口づけた。

オレは口元を覆い、一度幹に隠れる。
こっ、こんな学園内で一体何をしようというのだ。しかもこんな物静かな場所で……。

んんっと女生徒のくぐもった声。
口元を押さえる手に力が入る。き、きききキスくらいで何を取りみだしているんだ!恋人なら当たり前だろう!

せっかく涼みに来たというのに、身体の芯から熱く火照っていく。生でそういうことを見るのは、はははは初めてであって、深く深く口づける男子生徒を自分と重ね余計に動揺を隠せない。


「あれ、万丈目?どうしてこんなところに……?」

「ばっ!」


相変わらず空気の読めないこの男は、オレの態度に気がつかないまま歩み寄ってくる。
タイミングが悪すぎるだろう!このっ!


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