GX

□遠いね
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「ふぃー。さみー」


ちらちらと雪が舞い、はたりはたりと石畳にしみを作る。
北へ北へと歩いて来たせいか、かなり寒さの厳しいところまできてしまったらしい。
旅立つ前にコートを羽織ってきてよかった。


「十代。寒そうだね。今日はもう宿を決めたほうがいいんじゃないかい?」

「あー、かもな。そろそろ日も暮れてきたし、一旦休憩すっか!」


辺りを見渡せば、日は傾き街燈の明かりが仄かに輝き始めていた。
寒さでかじかむ手にはーっと息を吹きかける。
そろそろ手袋が必要だな。

ぎゅうっと両の手のひらを握り、寒さに耐える。
すると、隣の精霊がふわふわと宙を舞い、オレの手のひらに自分の手のひらを重ねた。


「ユベル……」

「僕じゃ温かくならないね。ごめんね、十代」


うっすらと涙を浮かべ、俯く。
あー、オレこういうの弱いんだよな。


「気にすんなって。ほら、はやく行くぞ!白くなっちまう!」


いつの間にか先ほどの粉雪が大粒の白に変わっていた。
しみを作っていた地面も、ゆっくりと白に染まっていく。

そういえば、一度、アイツが白くなったことがあったっけ。
オレがいない間に、いっぱい不安抱え込んで、斎王に洗脳されちまったんだよな。
今思えば、本当、どうしてもっと早くに気付いてやれなかったんだろうな……。


「ねぇ、十代。あれ、もしかしてそうなんじゃない?」


ユベルの呼びかけにはっとなる。
何事かと指差す先を見れば、そこは電気屋だった。
その電気屋の正面には、これしもかというくらいに大きなテレビがドンっと構えている。


「万丈目……」


ブラウン管の中の黒服。
大きな声援と、割れんばかりの拍手。
プロに入った万丈目の晴れ姿に、おもわず見とれてしまう。

あれ?
コイツ、こんなにカッコよかったっけ?
いつも馬鹿やって、皆にからかわれて、怒って、すぐに表情がころころ変わって、たまに見せる優しい表情がたまらなく可愛くて……。
もう、とても遠い存在だな。


「僕と十代も遠いけど、君と彼はもっと遠いみたいだね」

「ははっ。そうだな」


迷惑だと分かっていながらも、電気屋の前にドカッと腰を下ろす。
画面に映る愛しい人は、今日もデュエルディスクを片手にやいやいやっているらしい。


「あー、サンダーだ!お兄ちゃん、一緒に見てイイ?」

「僕も、僕も!」


もうすぐ日が暮れるというのに、どこからともなく現れた少年たちが群がってきた。
昔からカリスマ性に優れていたけれど、それは今もまったく変わってないんだな。

現在、万丈目のLPは1200、相手は2100だ。
万丈目の場にはアームドドラゴンLv7。
相手の場には裏側守備表示のモンスターが一枚。
伏せカードは無く、手札もハンドレスだ。
万丈目の勝ちに思われたが……。


「あー!サンダー負けちゃう!」


隣の男の子の声。
裏側守備表示のモンスター、荒野の女戦士が破壊されたことによって、効果が発動。
相手の場にはサイバー・ジムナティクスが召喚された。
あのカードは手札を一枚捨てることで、相手の表側表示モンスター一体を破壊することができるモンスターだ。
もちろん相手はその効果を使用する。
残念なことに、万丈目の場のモンスターはLv7のみ。
大きな爆発音とともに、アームドドラゴンは消滅した。


「大丈夫だって。アイツはそんなことで負けやしない」

「ほっ、ほんとぉ?」

「あぁ!」


少年たちと一緒になって目をキラキラと輝かせる。
ユベルが呆れたような顔でため息をついた。


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