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□天の川の向こう側
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七月七日。
説話には、この日にしか会えない男女がいた。
言わずもがな、織姫と彦星だ。
毎年その日になると天の川を渡って二人が会うのだと。

それって、とてもロマンチックだな。
そう言いだしたのは、十代だった。


電話越しに聞こえる笑みを込めたような声。
甘く囁かれる言葉に、油断をしたらすぐにクラクラときてしまいそうだ。


「ロマンチックか……。言っておくが、織姫と彦星が七夕に出会うのは無理な話だぞ」


どうしてそんな事をきりだしたのか。
何日もアイツに逢えない自分への、慰めだったのかもしれない。

十代はえっ、と間抜けな声を上げる。
それから不貞腐れたようにぶー、と謎の擬声を発した。


「天の川がどれだけ広いと思っているんだ?光の速さで数億年かかる距離だぞ。その間を一日で移動できるほど、織姫と彦星は器用じゃないだろう」


いたって真面目な話だったのだが。
十代がいきなり笑い始めた。
相変わらず、コイツの思考は理解し難いものがある。


「万丈目も真面目だな。遠く離れた所からでも、逢いに行こうとする姿勢が大事なんだって。逢えるか逢えないかは別として」


そういう貴様は、まったくオレに逢いにきやしないじゃないか。
前に逢ったのは三カ月以上も前だぞ。


「会えなければ意味は無いだろう。だいたい七夕は天気が悪い日の方が多いんだぞ」


オレは、逢いに来て欲しいなんて言えるほど素直じゃない。
言ったところで、十代が逢いに来るなんてこと有りはしないのだから。


「あの雨ってさ、織姫と彦星の涙らしいぜ。逢えて嬉しかったって涙なのか、逢えなくて寂しかったって涙なのかは定かじゃねぇけど」

「涙、か……」


そういや今日も一日中雨が降っている。
もしかしたらそれは、オレの涙なのかもしれない。
貴様に逢えない寂しさばかりが、積もりに積もった冷たい涙。

逢いたくても逢えない。
昔はずっと一緒だったのに。

あぁ、そうか。
南の島であるアカデミアに、雨なんて降らないからな。


「なぁ、万丈目。今そっち天気はどうだ?」

「お生憎土砂降りだ」

「実はこっちも雨なんだぜ」


言われて初めて気がついた。
受話器越しに鳴る雨の音。

どうして、もっと早く気づいたやれなかったのかと。
どうして、もっと早く言ってくれなかったのかと。


「十代のバカヤロー……」

「へへっ」


住んでいるマンションの玄関扉を開ければ、ずぶ濡れで佇むいとしい人の姿。
元気一色の肌は若干青白くなっているようにもみえる。


「ただいま、万丈目」

「やっと帰ったか。いつまでオレ様を待たせるつもりだ、馬鹿」


勢いよく抱きつく腕。
その冷たい体を自分もそっと抱きしめた。

end



思った以上にぐだぐだになってしまいまいした……。
十代さんを待ち続けるサンダーが書けて満足です。


 

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