GX
□特効薬
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喉の奥がチクリと痛む。
やけに体が熱っぽく、背筋がゾクゾクと震えた。
自分の体に、若干異変を感じながらも、今日は授業があったなとベットから起き上がる。
狭い部屋の中に置かれたベットとソファのせいで、足の踏み場が見当たらない。
ふと浮遊感を感じた後、オレの体は真っ逆様に床へと倒れた……。
─────
「万丈目っ!しっかりしろ!大丈夫なのか?」
まだ幼びた少年の声が耳元で鳴る。
重い瞼を開ければ、心配そうにオレを覗き込む遊城十代の姿があった。
その後ろでは、混乱しているのか走り回る翔の姿と、大徳寺先生に連絡を取っている前田隼人の姿が見受けられた。
どうやら、風邪をこじらせてしまったらしい。先ほどの目まいは、これが原因だったようだ。
大丈夫だ、と屈みこむ十代の腕をはらう。
が、足がもつれ、また目まいが襲った。
「全然大丈夫じゃねぇって!今日は休めよ、な!」
そんなオレの体を、そっと支える温かな腕。
そのまま背中に腕を回すと、足をかかえあげ、ふわりとベットに落とす。
柔らかな毛布が体を包み、スプリングがぎしっと音を立てた。
頭の先からつま先まで、全身がしびれるように熱い。
よほど自分に免疫のないウイルスだったのかと、肩を落とした。
それから大徳寺先生が来て、熱をはかるような仕草をした後、氷枕を枕元に置いていった。
後頭部にある、ひんやりとした感覚に溺れるよう、しっかりと目を閉じる。
やっぱりお前は元気じゃないとな。
誰かの声が、遠くで聞こえたような気がした……。
──────
耳障りな話し声が頭にガンガンと響く。
せっかく気持ちよく眠っていたというのに、いったいこれは何なんだ!
仕方なく片目を開け、部屋の様子を確認する。
一番に目に入ったのは、心配そうに自分を見つめる思い人の姿だった。
「てっ、天上院君!それに吹雪さん!カイザーまで!どうしてここに!それに貴様らはまだいたのか!」
ただでさえレッド寮は狭いというのに、一つの部屋に七人もの人間が入り込んでいる。
とてもじゃないが、暑苦しい!
「まだ寝てなきゃダメよ、万丈目君」
勢い余って起き上がってしまった身体を、抱きかかえるようにして寝かせる彼女の腕。
生きていてよかった!などと、元気なオレなら言ってしまいそうだが、生憎そんな元気は今のオレは持ち合わせていない。
「すまない、天上院君……」
「本当は一人で来るつもりだったんだけど、皆がうるさくて……」
「当たり前ッス!第一、明日香さんと万丈目君を一つ屋根の下に放置するなんて危険すぎるからね」
眼鏡をくいっと人差し指で上げ、得意げな表情をする。
翔……。
お前から見たらオレは獣か何かなのか!
「そりゃあ、可愛い弟子が風邪と聞いちゃあ、来ないわけにはいかないからね」
「オレは、興味本位だ」
バチンとウインクを決める吹雪さんと、言い草の全く分からないカイザー。
頼むから興味本位だけで押しかけてこないでくれ!
「で、万丈目は大丈夫なのか?身体ラクになったか?」
目を丸くして、明日香さんとオレを交互に見る。
何だかいつもの十代では有り得ないくらいに優しい。
若干、風邪とは別の寒気で背筋が震えた。
「熱は殆ど下がったみたいね。ただ、もう少しは安静にしてないと。またこじらせちゃったら私たちが来た意味が全くなくなっちゃうわ」
ね、と顔を覗き込むようにしてオレの髪の毛をすく。
細く長い綺麗な指先が目にとまり、赤くなった顔を隠すようにして毛布で口元を覆った。
今度は健康なときにその笑顔を見せてほしいと思う。
「何か出来ることがあったら手伝うぜ、明日香!」
「そうだよ。僕だって協力するからね」
「そうなんだなぁ。できることがあったら、言ってほしいんだな」
なんだかとても幸せだな、なんて自分らしくないことを考えていた。
たまにはこうやって大人数で過ごすのも悪くないかもしれん。
ただ、時と場所だけは弁えてほしいが。
「あっ、りが、とう……」
「ん?なんか言ったか、万丈目?」
「なっ、何も言ってない!」
そうは言うものの、十代の口元に見えた笑みをオレは見逃さなかった。
あぁ、結局この男にはまったく敵わないな。
「私は万丈目君がよくなるまでここにいるけど、皆はどうするの?」
「そりゃあ、もちろん。な」
明日香さんの言葉に合わせ、全員が頷く。
オレは明日香さん一人で十分だというのに……。
まぁ、今日くらいなら構わないか。
絶対に言ってはやらんけどな。
何だかんだで、次の日全員が授業を欠席したのはまた別の話。
end
何故カイザーがレッド寮にいるのかはスルーでお願いします。
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