お題小説

□ディスプレイにこぼれた雫
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真っ暗な空間を切り裂くように鳴り響いたのは、黒塗りのノートパソコン。

大きな画面にはテレビ電話受信中の文字。
テレビ電話を受信すれば、見慣れた顔が目に映った。


「よっ、よお…。」

手を上げて挨拶をしても、きょとんとした顔でこちらを見つめる彼。

「なっ、スクアーロ、どうしたんだ?」

どうして電話をかけてきたのかも分からず、こちらから質問してみれば、小さく口が動いた。


「記憶が無くて誰だか分かんねぇけど、オレさぁ、お前に何か言いたい事があった気がするんだぁ…。」

ズキンっと音を立てて痛む胸の奥。
その言葉、それが愛の言葉だと分かってしまう自分に嫌悪してしまう。

ぐっと自分の胸元を掴めば、汗ばむ掌。
何もできない自分が嫌で、嫌で…。


「さんきゅ…。気持ちだけで充分だ…。」

ぎこちない笑顔を向ければ、彼のふんわりとした笑顔が返って来た。

「何で礼を言われなきゃなんねぇのかはわからねぇが、てめぇが嬉しそうにしてるの見てると、心が温かくなるんだぁ…。」

彼もぎゅうっと、胸元に拳を当てる。

その姿が眩し過ぎて、画面の向こうの君を抱きしめたいそんな気持ちになった。


「わりぃ、そろそろ切るな。多分またかける。」

一瞬の微笑みの後、ぷつりと途切れた着信。

急に目の前が歪んだ。
回りの景色が荒んで見えて、キーボードへと落ちる何かが、何だか分からなくて…。


「スクッ、アーロぉ!好きっ、だっ!頼む、思い出してくれっ!」

聞こえていないと分かっていて、叫んで、叫んで…。

そして、虚しくなって…。


ディスプレイに零れた雫をそっと腕で拭えば、もう見えないはずの彼がそこにいる様に感じた。

end

切ないを目指して見ましたが、どうも上手く行かないという…。
もっと、きゅんって来るやつを書きたいです!


 

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