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□金木犀
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昼寝の途中
この季節特有のあの匂いが部屋に舞い込んできた



アイマスクを額までずらし重い体を起こす


まだ朝なのに沖田にとっては昼寝だ



「らしくねーなァ」



どうやら沖田らしくない夢を見ていたようだ



「土方さんが来るまでに早く支度しなきゃ」














沖田はとても懐かしい夢を見た



武州にいた頃の…そうだ、姉さんもまだ元気だった時だ



「まァーたミツバ殿、辛いもの食べましたね
あれだけ止められてるって言ったのに…」



ゴリラ…いや近藤さんが姉さんに注意している



毎日毎日同じことの繰り返しだ



「ごめんなさい…どうしても食べたくて
近藤さんもどうですか??」



にっこりと恐ろしいことをいうこの人は俺の好きな姉のミツバ姉さん



「あら、そーちゃん??
こっち来て一緒に食べましょうよ」



この頃の俺は反抗期真っ只中で大好きな姉さんにも反抗していた



「要らない
行ってきます」



寂しそうに弟の後姿を眺めているミツバに近藤は



「仕方ないんですよ
誰だってこういう時期があるんですから」



そう言って近藤はミツバお手製の激辛蕎麦を食べ始めた



ミツバは小さくなっていく沖田の背中を見つめていた
























俺だって大好きな姉さんに反抗したくない



けど…反抗しちゃうんだ



反抗期なんてなくなればいいのに



寺子屋までの道のりを俯きながら歩く



すると前方に見慣れた着物姿の男が歩いていた



土方…



「おい早くしろ
みんな来てるぞ」



「知ってます…
わざと遅く来たんですから」



土方の前を通りすぎようとしたとき



「お前の姉さんお前の反抗期のこと心配してる
反抗期は心配されたってどうにもならないがな」



「そうですか…」



そんなこと知ってる


言われなくても知ってる


寺子屋に向かって歩き始めた俺を土方は止めなかった


あとはちゃんと勉強してたかとか覚えてない


反抗期なんて…


確か秋に近づいてた夏でつくつくぼうしがよく鳴いてた







もう秋の…そう10月くらいだったか



ある1人の男が家を訪ねてきた



姉さんに用があると言った


その男は…姉さんに結婚を申し込みに来たのだ


姉さんもそろそろ結婚してもいい頃だ



だがいつまで経っても結婚しない


病気に貪られていつ入院するかもわからない



その前に幸せになってほしい



子どもながらに大きな夢



みんなが言う夢とかそういうのは興味ない


俺は大好きな人に幸せになってもらいたい


それが今話している人でもいいんだ


反抗期だからか考えが変わってきた


しばらくしてミツバが帰ってきた



「あの人はねあたしの同級生で、今は都会の方でお仕事しているんですって
それで色んな家を回ったあとうちに寄ったんですって」



「何か言われたんですかィ??」


「え??」


「結婚、でしょ」



ミツバは戸惑いを隠せないでいる


「幸せになってくだせェ
それが今一番の夢です」


するとミツバは微笑んで


「そーちゃん、ありがとう
確かにあの人に結婚しようとは言われたけど断ったわ」



「え??」



「わたしね、好きな人がいるの」



初めて明かされたミツバの気持ち



「じゃあ…その人と是非幸せになってくだせェ」



「そーちゃん…そーちゃんも素敵な人を見つけてね」



ミツバの好きな人が誰だか知ったとき俺は複雑だった



その時とても印象に残ってるのがこの匂いだ



姉さん…幸せですかィ??







「総悟行くぞ」



「はい」



土方に呼ばれ隊服をきちんと着直して近藤と共に車に乗る



今から行けば3時には着くか…



しばらく車を走らせて着いたのは墓地



懐かしい匂いがむせかえるほど匂ってくる



お墓を綺麗にし花も取り替える



線香をたてて手をあわせる
















姉さん
今も昔も変わらず俺は姉さんの幸せを祈っています

















end

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