05/18の日記

00:44
牡丹の奇跡
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これは去年中学3年生だったTという生徒のお話…





Tが俺の塾にやってきたのは2年前の夏。Tの姉を俺が教えていて、他の塾から移ってきたのだ。



Tは姉と同じように成績優秀でスポーツ万能、おまけにイケメンである。



志望校は名門大学附属の男子校。日本では有数の難関校ではあるが、Tは常に合格の可能性がA判定だったため、俺は特に心配することなく12月の受験直前を迎えた。









そんなある日のこと…Tの母親が顔面蒼白な状態で俺のところに来た。


買い物帰りに世間話をしに来るいつもの様子とは明らかに違う…









先生、私、癌になっちゃいました…



子供が受験直前だと言うのに、なんて罪作りなんでしょう!



年明けに入院することになってますが、子供に病気のことは伝えていません…



もし私の病気のことを知ったら、受験どころではなくなりますよね…












俺はショックで言葉が出ない…



いつも、煮物や果物を俺に持って来てくれる元気なお母さんが癌なんて…








今までも、生徒の親が病気になって入院することは数多いが、繋がりが深い親であればあるほど、心が痛む…








果たして子供に病気のことを隠し通すことが出来るか?



賢明な子供のことだ。癌を隠し通しても、検査の様子や使っている薬、その他様々な経路から、母親が癌であると悟るのは時間の問題だと考えた俺は、悩んだ末にこう伝えた。








お母さん、仮に病気のことを黙っていたとしても、あの子たちのことだから、すぐに気づいてしまうでしょう。



T君は、お母さんが病気であることを知っても、それを受け止めるだけの器をお持ちです。



お母さんが必死で病気と戦っている姿を見せることが、T君のためにもなると思うんです!



彼がくじけそうになっても、我々が支えますから安心してください!!











このお母さんに日頃の恩返しをするのは今しかないと考えた俺は、涙を流しながら自分の気持ちを訴えた。










そして後日…








両親と子供と俺をまじえて、本当のことを言う日が来た。







現在の病状、入院の時期、母親のいない間の役割分担…







Tと姉はうなだれながら話を聞いていたが、動揺はしていない様子にホッと胸をなでおろした。









1月に入ると母親は入院し、精密検査と手術と治療の日々。



その間、高校に出す願書の作成を中学校の担任の先生とやり取りしながら俺が書き上げていく。










一字一字、お母さんの病気が治ることとTが合格するように祈りながら…











一方、Tの受験結果は芳しくはなかった。



私立の滑り止め1校が合格しただけで、第二志望も第三志望校も不合格…








余計な心配をさせたくないとの理由から、この結果を母親に伝えるのをためらっていたTだが、第一志望校には絶対に合格するという決意とともに、不合格の結果を伝えたことが、奇跡を生んだ。











第一志望無事合格!!









病院では先生や看護士の方まで泣いて喜んでくれた…









そんな4月の終わりのある日…










ベランダで育てている牡丹の花に異変が起こっていた…







いつもは1輪しか咲かない牡丹の花だが、今年は2輪の大きな花をつけた…










俺はTの母親に牡丹の画像を添えてメールを送った。












お母さん、家の牡丹が2つの花をつけました。








寄り添って綺麗に咲いているでしょう?



まるでT君とお母さんみたいですね…












そして、とうとう牡丹の花は奇跡を呼んだ…














嬉しいことに、明日、T君の母親は無事に退院することとなった。

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