拍手@小ネタ集

□White a demon1
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「うお!今日ジャンプの発売日だ!!」



TVに目を向けていた銀時が、すくっと立ち上がる。

ジャンプは時々土曜にでるから気をつけろ!とはこの事なのだ。

・・・時刻は午後5時。

間に合うか?

「銀ちゃぁん、今日は特別付録付き合併号だからもう売り切れかもしれないアルよー?」

玄関でブーツを履いていた俺に、神楽が投げかける。

「・・・げ!!!」

記憶を辿ると、確かにそんな事が書いてあったような気もする・・・。

ダラダラと冷や汗が流れる俺を、新八が押してくれた。

「銀さん!そんな所で固まってないで、早く行って下さい!」

「新八ィ・・・」

ニコッと微笑む新八が、何故だか天使に見える。

つーか涙で目がかすんで・・・くそぉっっ!!



「いってきます!!!」



銀時はバタバタと階段を降りていった。

「・・・ふぅ」

新八が短い溜息をつく。

「どうしたアル新八?」

神楽が酢昆布を口にくわえながら新八に問いかける。

新八は、ごそごそと風呂敷からDVDケースを取りだした。

「銀さんが居ない間に、大音量でお通ちゃんのライブDVDを・・・!!」

「・・・そうアルか」

新八の優しさは銀時の為ではなく、愛する嫁のためだったのである。





場所は変わって、歌舞伎町の大通り。

そのど真ん中を駆けていく銀髪の男が居た。

「うぅ、コンビニ5件まわっても無ェとかぁぁ・・・・!!!」

軽く涙目になりながらひたすらコンビニへと走る。

走りすぎて、足はもはや生まれたてのヒツジ状態。

「次無かったらどうし・・・・・・・・・・・・うわっ!!!!!!!!!」

曲がり角を曲がったところで、誰かとぶつかった。

銀時の体は後ろに跳ね返される。

「いってェー・・・」

尻もちをついた銀時は、埃を払いながら、相手を睨みつけた。

「テメェ、謝る気はねェのかよ?」

キッ、と睨みつけると、相手はひるむどころか怪しげに笑いだした。

「ククッ・・・相変わらずだな、銀時ィ・・・」

低音で笑うこの声。

嫌でも思い出してしまう、この声。

知っている、俺はこの男を知っているー・・・。

出来ることなら、もう一生出会いたくなかった相手。



「な・・・で・・・?・・・・・・・・・高杉・・・・・・?」



夕焼けの日差しに照らされたのは、紛れもない、高杉だった。


アスファルトの上にいる俺に、高杉が近づく。



「・・・・・・・・・っ!」



脳の中の危険信号が点滅する。


けど、動けない。


体が思うように動かない。


ガクガクと足が震える。


「・・・・・・・・ひ・・・・!」



やがて高杉は、銀時の体をドンッと壁に押しつけた。


「う・・・」


背中に激しい衝撃が走る。



高杉の表情は、逆光で読みとれない。


なんで?


どうして?


高杉が・・・なぜここに居る?



「銀時・・・」



高杉が、俺の上顎をすりすりと猫のように撫でた。



「んぅ・・」



不覚にも、反応してしまう俺が憎い。



高杉はその反応を楽しんでいるのか、黙ったまま上顎を撫で続ける。



「俺は・・・ずっとお前を探してた」



ふと、優しい高杉の声が脳に響く。


高杉の手は俺の髪の毛に絡んで、優しく優しく撫でてくれる。



・・・もしかしたら、アレは夢だったのかもしれない。



高杉が、あんな事・・・するわけない。



こんなにも優しい瞳で笑ってる高杉がー・・・・・・・・・



「!!」



違う。



優しくなんかない。



この目は、この感じはー・・・・



獣の目だ。



とっさに体が反応して、高杉の手から逃れようとした。



だが、時すでに遅し・・・高杉は逃してくれない。



今まで優しかった手も、凶器にかわる。



髪の毛をぐしゃっと掴んで、地面にたたきつける。



「う・・・あ・・・」



顔のあちこちから血が流れるのが分かる。



痛い。



イタイよ。



「た・・・・高杉・・・」



意識が朦朧とする中、高杉の名を呼ぶ。



「俺は、ずっと探してた。・・・俺はお前のご主人だろ?・・・飼い犬が見つかってよかったぜ」



残酷に笑う高杉。



「逃げようとした犬にはお仕置きしてやんねェと・・・なァ?」



目の前にいる悪魔の笑みに、俺の意識はぷつりと消えてしまった。










体がふわふわする。



何これ、夢の中?



記憶の中の俺は、すごく楽しそうに笑ってる。



ヅラと、辰馬と、高杉と・・・幸せそうに、笑ってる。



こんなにも俺の過去はキラキラしていたか?



・・・いや。



これはほんの一瞬でしかなかったんだ。



悲しみ、苦しみ、怒り・・・そんな感情が過去の多くを占めていた。



その中でも、



この・・・記憶だけは・・・。



一生、思い出したくない。



生きてる中で、初めて死にたいと思った時。



生きてる中で、初めてこんなにも恨んだ相手。



初めて・・・絶望を与えた相手。



お願いだから・・・この記憶だけは、再生しないで。



刻んで燃やして灰になって捨てて。



お願い・・・だからー・・・・・・。

「!!!!!」



パチッ、と目が覚める。



俺は・・・。



「・・・」



昨日、高杉相手に失神させられたんだっけ・・・。



よく見ると、俺の手は頭上で拘束させられている。



足は、何故か閉じれないようにM字に固定されていた。



ジャラジャラと鎖で繋がれた俺は、動くことさえできない。



しかも、手足を動かせば、鎖が触れ合って音がする。



下手に動けない。



「・・・・・・白夜叉」



カツカツと静かな個室に足音が響く。



高杉じゃない。



「晋助は、ぬしを白夜叉に覚醒させようとしているのでござる」



「おまえ・・?!」



そいつは、以前やり合った、ヘッドフォン野郎だった。



「覚醒って・・・どういう意味だよ」



銀時が目を細くして言うと、万斉はニヤリと笑った。



「それは・・・ぬしは今、平凡な日々を送っているでござろう?それじゃつまらない。いつか飽きる日が来るでござる。・・・それを防ぐために、晋助はぬしを白夜叉に覚醒させて道を正そうとしているだけでござる」



淡々と喋る万斉に、銀時は殺意を抱く。



「・・・つまらない?この生活が?・・・馬鹿言ってんじゃねェよ。俺はアレで満足してる。アイツに従うつもりはねェ。さっさと開放しろ」



低音で言うと、万斉は無言で部屋を出て行こうとする。



「おい!無視かテメェ!!」



銀時が怒鳴りつけると、万斉が扉の前で足をとめた。



「白夜叉・・・ぬしは人間ではない事を覚えておくでござる」


万斉の言葉の意味に、理解が出来なかった。



「・・・なんだってんだ・・・」



銀時は首をカクンと降ろして、ただひたすら、悔やむ事しかできなかった。



俺が人間じゃない。



そんな事、分かってる。



分かってたけど・・・そんなの、認めたくなかった。



自分が自分じゃなくなるみたいで・・・化け物みたいで、受け入れられなかった。



唯一それを知っているのは、ヅラ、辰馬、そしてアイツ・・・高杉だ。



大事な戦友だけには、知ってほしかった。



「・・・・・・・・・」


俺は、天人と人間の間に生まれた子供だ。



生まれたすぐ、赤い瞳と白い髪を不気味がって、両親は俺を捨てた。



・・・・・・アンタなんか、生まれてこなければよかったのに!!!!!!!



思い返す度に、その言葉はなぜか鮮明に聞こえてくる。



何度も、何度も、何度も・・・孤独を感じてきた。



容姿が少し珍しいからって、からかわれたりもした。



そのうちに、俺は心を閉ざしてしまったのかもしれない。



・・・そんな時。



心の殻を破ってくれたのは、かけがえもない、高杉達だった。



信じてた。



心の底から信じてたのに。



なのに今、こうして裏切られている。



否、裏切りは前から続いていた。



まだ江戸に来る前の事。



高杉は俺を監禁して、毎日毎日、俺が泣き叫ぼうが喚こうが死にそうになろうが、滅茶苦茶に抱いては放置した。



それは愛ゆえのものではなく、ただの道具として。



俺は・・・天人と人間の間の子供でも、ましてや夜叉でもなく、ただの道具となり果てていた。



そうして、抵抗すらしない、心臓だけ動いてる人形みたいになってしまった俺を、高杉は「つまらない」とだけ言って、路地裏に放置した。



所詮は、それだけの価値だってことだ。



でも。



「・・・おい、お前、大丈夫か?」



差しのべられた救いの手。



それは、黒い服を纏った男。



不器用だったけど、優しくて、頼りがいがあって・・・。



いつのまにか、心を開いてしまってた相手。



神楽や新八とは違う、別の感情を抱いていた相手。



それが、土方。


「・・・・・・・・・・信じてたよ」



高杉、お前の事。



「・・・・・・・・・愛してた」



偽りじゃなくて、本当に。



「・・・なのに」



どうして。



「どうしてこんなことするんだよ?」



涙があふれ出して止まらなくなる。



きっと俺は・・・また高杉に、



「言ったろ。俺はお前の主人だって。・・・犬が主人に刃向かうなんざ、あってならねェ事なんだよ、銀時ィ」



月明かりに照らされて、その人物は歩み寄ってくる。



「テメェの力は凄い。お前さえいれば、江戸をブッ壊すなんざ容易い事だ」



「・・・・・・・・・・・」



「なのに、何だこのザマは。俺が少し余地を与えてやろうと思って放し飼いしたら、この体たらく。昔のお前は・・・白夜叉はどこに行った?あ?」



「・・・・・知らない。俺はそんなの知らない」



「まあいい。俺がソイツを・・・・目覚めさせてやるよ」



高杉はククッ、と笑うと、



「万斉」



さっきの男を、呼んだ。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!」



俺は目を疑った。



いや、現実を信じたくなかった。



「白夜叉。さもなくばこの小娘・・・血の海に沈む事になるでござる」



万斉は、縄で縛った神楽を連れてきた。



「なっ・・・神楽?!」



そんな、ウソだろ・・・・??!



どうして神楽が?!



「銀時ィ、お前、随分楽しそうな生活送ってたらしいなァ。この小娘、今ここで、俺が斬る」



高杉がチャキ、と刀に手をかけた。



神楽の意識が、戻り始める。



「高杉!!!!!!やめろ!!!!!!!!!!」



高杉は引き抜いた刀を、神楽めがけて振りおろす。



「ぎんちゃ・・・・・・・・」



びしゃっ



「・・・・・・・・・」



神楽の胸を引き裂いて、返り血が飛んでくる。



「・・・・かぐ・・・・ら・・・・・・?」



目の前にいるのは、紛れもない神楽だ。



その神楽が・・・血で染まっている。



銀ちゃん。



そう呼ぶ途中で、神楽は首をカクンと降ろした。



何故なら・・高杉に斬られたから。



ドクドクと血が流れてくる。



その血を高杉は恍惚の表情で眺めていた。



「・・・・神楽」



銀時がポツンと呟く。



「神楽アァァァァァァアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」



銀時の悲痛な叫びだけが、部屋には響いた。





その瞬間。



銀時の中の何かが、プツンと切れた。



ブシャッ



バタバタと倒れていく高杉の部下たち。



「高杉」



銀時は、数える暇もないほど早く、高杉の目の前に来ていた。



「お前だけは、殺す」



高杉が気づいた時には、銀時がすでに刀を振るっていた。



否、白夜叉が・・・刀を振るっていた。



ガキィィィン!!!!



それを寸の所で高杉が封じる。



高杉はチッと舌打ちすると、万斉が部下を100人ほど連れてくる。



「待て」



退こうとする高杉に、静止の声をかける。



が、敵がたくさんいるため、引きとめるのは不可能。



・・・・・・・・・・・なハズだった。



「・・・・・・・・」



ブシャッ!グチョッ!



取り囲んでいた隊士全員を、刀一太刀で絶命させた。



「ひぃっ!」



それに怯えて、残った隊士たちは逃げていく。



その隙に、高杉を目で追う。



「・・・・・見つけたァ!!!」



背後から飛びかかる銀時。



ビリッ



「うあ!!」



銀時の背筋に電流が走る。



「うあ、あ、ア・・・・アアアアアアァアア!!!」



地面に座り込んで、頭を必死に抑える銀時。



「いた・・・イタイ・・・・ア、ア、・・・」



いつのまにか、その電流は銀時の体全体を包み込んで、ビリビリと電気を発した。



「う・・・・・・・・・・・」



そしてそのまま、バタッと倒れてしまう。



「・・・銀時ィ、刀を振るい舞う姿、綺麗だったぜェ?」



銀時は、高杉によって・・・白夜叉へと覚醒させられてしまった。



残酷な手によって、また塗り替えられてしまった。


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