銀魂1
□7
1ページ/1ページ
「なっ……ぎん、とき?」
無表情。
まるで生きた屍のような顔の銀時が、そこにはいた。
綺麗な光が宿っていた紅い瞳も、
逆光で輝く銀髪も、
何もかもが、
“無”に染まっていた…。
「銀時!!!お前、何して…………ぁ……?」
ドスッ、と何かが下腹部に刺さり、生ぬるい血が溢れて理解した。
────刺された…?
「がはっ…」
刺さっていた小刀を目の前の銀髪は無情にも抜きさり、矛先を神楽に合わせた。
土方は、力を振り絞って銀髪の腕を掴んだ。
絡み合う冷たい視線。
ソイツは、銀時なんかじゃない。
あいつは、こんな表情なんてしないから。
やさしくて、馬鹿で、無邪気で、あったかくて。
全てを包み込んでくれるような笑顔。
困ってるやつがいたら、敵であろうと助けてやる…そんな、銀時は…居なかった。
「……離せ」
「むり…だ、」
「気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!触るな!!!!!」
そう叫びながら、小刀を振り回す銀髪を、抱き締めた。
「ぐ……っくぅ……っ!」
別の箇所にまた小刀が刺さる。
吐きそうな痛みが土方を襲った。
だけど、いい。
別に、いい。
「離っ「銀時…おねが、だから……戻ってこいよ…」……」
更に抱き締める力を強めた。
その勢いで小刀が奥深くへと沈んでいく。
「銀時……銀時っ…皆お前を待ってる。だか、ら。帰って…こいよ…!!」
「…………ァ……………………
ヒジカタ…?」
ヒジカタ、確かにそう言った。
良かった。まだ理性は全部持っていかれていない。
恐らく、誰かが銀時の事を──…
「ねぇ。何してるの?俺のお侍さんに触らないでよ。
…ほら、銀時。早く、その男の事殺しちゃってよ」
戻りかけていた銀時の表情が、また初めに戻ってしまった。
「ぎん」
「離せ!!!触るな…その汚い手で触るな…」
「銀時」
「お前なんか、殺……………」
ぽたたっ
また血が滴る。
だが土方は気にしない。
「お前………なんで」
銀時が驚愕した表情を浮かべた。
「なんで…??そんなの…お前の痛みに比べたらなんともない」
「馬鹿じゃ…ねぇの、お前。…本当に……お前ってやつは…なんで…なんでだよぉ…!!!!!」
「ぎ…と、き…?」
「…さっき一度、理性が戻ってきたんだ。お前を…お前を殺したくない…お前が俺を忘れるように…こんな事したのに…!!なんで、お前は…っ」
銀時は、目尻に涙をいっぱいためてわんわん泣いた。
俺が銀時を嫌いになる?
俺が銀時を忘れる?
そんなの………
「お前を…忘れられるわけ、ないだろ?」
今の俺は死にそうで、滅茶苦茶格好わるいけど。
「土方ぁ………帰っても、いいの…?」
「何言ってんだ。馬鹿……帰るぞ」
お前の事が好きなんだ。
「あらら〜愛の力って凄いんだねぇ、阿伏兎」
「いいのか団長?せっかく拾ったのに返しちまって」
「うん。あのね阿伏兎、俺…試してみたくなっちゃった」
「はぁ??何をだ??」
「本当にあの二人の愛は本物かどうかを、ね。楽しみだなぁ」
そうして、銀時は帰ってきた。
今では、もう白夜叉が覚醒するなんてことはなく、毎日平凡に暮らしている。
「普通って…幸せだな、土方」
「そーだな」
「腹の傷…ごめんな。
それと、ありがとう」
お前のそんな笑顔がみれるんなら、
「ああ…おかえり、銀時」
俺はもう、何もいらない。
お前も…そうだろ?
ずっとずっと、愛してる。
絶対言ってやらないけど、俺は銀時の頭を優しく撫でた。
END