銀魂1

□コードD
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万事屋には、金が無かった。
それはいつもの事だが、食事もろくにとれず、食べ盛りの神楽と新八は痩せ細っていた。
俺が金を持っていないが為に、神楽には満足に食事を与えられず、新八にはキツい労働をこなしてもらっている。
それでもお金は足りず、二人はそれでも毎日笑ってる。
でもそれは、見ていて痛々しかったし、いたたまれない気持ちになった。
そんなの駄目だ。

俺が…俺が二人を護らないと──…。

日々疲れ切った顔をする二人に、もう耐えきれなかった。
嫌だ、そんな姿はもう見たくない。
全ては、俺が招いた結果だ。
例えどんな仕事でも、今はやれる。
なんとかしなくては…と頭を抱えた。


その時。


ふと、よからぬ案が脳裏に浮かんでは消えた。
危険で、そして決していい事ではない行為。
失敗したら、二人を泣かせてしまうかもしれない。
それほどのリスクを伴うことになる。
だけど、賭けるしかなかった。
こうでもしないと、俺は…。

『神楽ちゃんに銀さん、おかわりはいりますか?』

『おう、さんきゅーな』

『当たり前アル!もっとつぐヨロシ!』

二人の笑顔を護る為なら、


俺は、どんな事だってやってみせる。


















次の日、俺は夜の11時を回った頃に、とある路地に来ていた。
そこは、攘夷浪志が活発に動き回っている事で有名らしい。
だからこそ、人気はなく、知人に見つかる可能性はない──…銀時はそう踏んだのだ。

寒空の下、目的の人物を待つ事約10分。

用心棒にと握り締めていた木刀を、誰かが押さえ付けてきた。
更に、追い討ちをかけるように首元には鈍く光る刀がつきつけられていた。

誰かなんて、見なくても分かる。







「ククツ…何をしに来た、銀時ィ?」

月光がこれほどまでに似合う男は、他には居ないと思うくらい、


狂気に満ちた──…


「…頼みがある、高杉」


天敵でもある、高杉晋助がいた。


















「ほぉ…何でもやる、ねぇ。だったらいい仕事を教えてやろうか?」

高杉は、初め銀時の話を聞いてあり得ないと思ったが、銀時の眼は本気だった。だからこそ、ゾクゾクする。
コイツのプライドを何が突き動かしているのかは知らないが、銀時の今まで知らなかった顔をもっと見たいと思った。

それに、利用出来るものは利用しておいた方がいい──…。





ザァ、と近くの海のさざ波の音がした。


「何でもする、異存はないな?」

「あぁ、何でもする」

銀時の眼差しに、高杉は怪しく笑った。




「お前に仕事を与えてやる。









───真選組のデータ及び汚点、構造や会議の内容、個人情報を盗んでこい。いいな?」






それでも、銀時の眼は揺るがなかった。


















「トシ、今日は緊急会議を開く。隊士を集めておいてくれ」

廊下を歩いていると、近藤さんに止められた。
゙緊急会議゙となると、今までに数回しか開いた事がない。

主に、過激派の攘夷浪士…鬼兵隊や、過去の英雄の事、などなど、危険な事ばかりだ。

何故か、嫌な予感ばかりがして落ち着かない。

土方は、隊士に呼び掛けた後、会議室へ向かった。



重いドアを開けると、近藤さんはすでに居て、何やら複雑そうな表情をしていた。
いつもの切羽詰まったような顔じゃない。


これは、何かを隠そうとしている眼だ。


無言のまま、隊志が集まっていく。
会議が始まった。







「急に会議を開いてしまってすまない。重要な事だ、真剣に聞いてくれ」


近藤さんが真面目に話しているのを見て、皆の緩んでいた顔が一瞬にして引き締まった。
こういう時、やっぱり近藤さんは局長なんだと実感させられる。







「───真選組のデータが、何者かの手によって曝されている。構造や武器、作戦や個人情報、色んなものが漏れている」





隊士や俺の顔が強ばった。

誰が、そんな事…。




「それはどうやら、通信で行われていたらしくてな。データが残っていた。ほんの一抹のデータだが、コードが表記してあったんだ。そしてそのコードを精密に調べた。そのデータの出先は、













万事屋…だった」




ああ、崩れていく。
皆の表情が崩れていく。
近藤さんのジョークに、流石の俺も乗れなかった。
万事屋、だ?
バカ言うなよ、そんなわけ、あるはずが…。


「近藤さん、本気で言ってっ」

傍らで聞いていた総悟が、珍しく焦ったような表情で近藤さんに問い掛けた。


近藤さんが、無言で首を縦に振ったのが、なによりの肯定だった。




俺に近づいたのも、
俺と仲良くなったのも、
愛し、あったのも。


全ては、これのため?


そしてその日、銀時は無表情に別れを告げた。
吸い込まれるような紅い瞳に、俺は何も言えないでいた。





何が真実で何が嘘なのか、

俺は一体何を信じたらいいのか、



もう、何も分からなかった──…。


















「ねぇ、聞いてるんですか?答えて下さいよ!!!!!!!もう犯人は旦那だって分かってるんです!!!!!俺だって信じたくない。だけどこれが事実なんです!!!!潔く答えてください!!!」

一つの部屋で、山崎の怒涛が聞こえた。

俺は、無意識にその部屋のドアにたたずんで、話を聞いていた。



「やって…ない」

ぽつり、と零すように漏れた声は、聞き取るのがやっとだった。
俯いたまま、顔を上げない。

「嘘吐かないで下さい」

「本当に…俺は何も…」

「いい加減にしろよ!!!!!!!!」


その声に、銀時がびくっと震えるのがわかった。
俺は堪え切れなくなって、ドアを開けた。



「ふ、副長…?」

「俺がやる。席を外せ」

「わ、分かりました」


土方が言うと、山崎は銀時を睨み付けた後、一礼してからドアを閉めた。



二人きりの空間。
土方は、優しく尋ねた。





「なぁ、銀時…真選組のデータを盗んだのは、お前か?」




「…………」




銀時は、こくりと頷いた。






「そのデータ、今持ってるのか?」





またもや銀時は静かに頷き、着物の裾からUSBを出した。

そして、それを捨てるように机の上に置いた。




「これをどうするかは…お前に、任せる。」



……『これ』が差す物、――即ち彼の、今後。
俺はどうすればいいのだろうか?



なんて、


答えはもう…、既に決まってるのにな。








「ほら、土方くん…俺を逮捕すんだろ…?…もう、どうにでもしてくれよ…」



まるで諦めたような銀時の声色。



土方は、放置してあるUSBを取り、パソコンに繋いだ。




カチカチ、カチカチと無機質な音がただ響いた。

銀時は、その様子をぼーっと見ていた。















「え………?」









銀時は目を疑った。
土方が扱うパソコンの画面には、こう表示されていた。
















゙全てのデータを、削除しましだ














「…銀時。お前は何もやってないんだ。何も悪くない…」



そう言って抱き締めてくれた土方の手は、ガタガタと震えていた。
俺は意味が分からなくて、ただ困惑した。

コイツは悪を取り締まる警察で、
俺は逮捕され罪にかけられる犯罪者で、

なのに…どうして。
どうして、自分の危険も顧みずにそんな事を?





「銀時…」





例えお前が犯罪者でも、
例え俺が悪を取り締まる警察でも、



それでも、俺はお前を…











「愛してるんだ…銀時」








殺風景な部屋で、二人はずっと抱き締めあっていた。

















「近藤さん、やつは犯人じゃなかったよ」

部屋から出た俺たちは、局長室にきていた。

「そう…なのか?トシが言うなら、間違いないな…」


平気で嘘をつける自分自身が酷く憎たらしい。





ごめんな、近藤さん。





だけど俺は、銀時が大事なんだ、なによりも大事なんだ。



「坂田、疑ってすまなかったな」


「え…あ、おぅ…」


近藤がバツが悪そうに苦笑いをすると、銀時も晴れない表情で苦笑いをした。


「近藤さん、俺送ってくるわ」

















「土方…何で俺を助けたの…?」


夕暮れの道を歩きながら、銀時がぽつりと言った。



そんなの決まってる。


「お前が好きだから…

…だから、またやり直したい…」



銀時は一瞬、驚いた表情をした後、泣きそうな瞳を揺るがせながら言った。



「俺、お前を裏切ったんだよ?」

「知ってる」

「最悪な事…したんだよ?」

「知ってる」



「それでも、まだ……」















───俺のコト、愛してくれるの?











高杉の仕事を引き受けた時、俺は迷わなかった。
そんなの簡単だって思ってた。
土方より、神楽や新八の事ばかり考えていた。
例えお金が入っても、俺が失敗したら余計に悲しませて、息苦しい生活を強いる事になるって分かっていたのに。


ある程度情報を盗んだ後、土方と別れたのはただの自己満足だった。
謝罪の気持ちと、自分が犯してしまった罪を償うように、俺は別れを告げた。



それにもし、俺が捕まった時に、恋仲だなんて知られたら副長である土方にも迷惑がかかってしまう。

多分、真選組にいづらくなっただろう。


なのに、お前は…




「当たり前だろうが…!!」



こんなにも、ぐしゃぐしゃになった顔で俺を怒ってくれた。
こんなにも、汚れた俺を抱き締めてくれた。


次は絶対離れていかないように、離さないようにと、まるで誓いを交わすような…そんなキスをした。


















「じゃあ、行ってくる」

「ん、いってらっしゃい」



俺は、事情を知った事もあり、今は万事屋に住んでいる。

勿論、チャイナと志村弟も一緒に。







「頑張れよ、飯作って待ってっからな!」


銀時が階段からそう叫んだ。
















俺は、存在しない犯人を求めて、今日も必死に調査をする。












こいつらの笑顔を、護るために───…。






END


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