銀魂1
□ありがとう
1ページ/1ページ
「あ、今日俺の誕生日だ」
カレンダーを見て銀時が呟くと、今まで何ともない顔をしていた新八と神楽が凄い形相で駆け寄ってきた。
「なんでそれ早くいわねーんだよ!!!?」
「ツンデレアルか銀ちゃん!?このドラ息子ォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」
朝起きてそうそう、俺は二人に罵倒されて神楽に蹴っ飛ばされました。
・・・俺、誕生日なのにィィ!!!!
---ありがとう---
「はぁ?万事屋が誕生日だァ?」
銀時の誕生日と知った二人は、真選組屯所まで出向いて土方にそれを伝えた。
勿論、土方と恋仲の関係であることを二人は知っていてのことだった。
「そうアル!だからお祝いしなきゃならないネ!」
「そうです!!!銀さん、本当は土方さんにお祝いしてほしいんですよ!!!」
新八とチャイナがじりじりと詰め寄ってくる。
「そう・・・か。誕生日か・・・」
わかった、お祝い、してやるよ。
「ありがとうアルマヨラー!」
さて、何をプレゼントしようか?
甘味?それとも金・・・は、いやいや、ダメだダメ。
プレゼントは俺・・・もダメだっつーか何考えてんの俺!!!!!
「やっぱりケーキとかか・・・?」
アイツの喜ぶ顔を思い浮かべるとなんだか心が溶けていくような気がした。
土方は煙草を片手に、近場のケーキ屋さんまで走った。
------------------
「ハッピーバースデー銀時くん、でお願いします・・・」
近所のケーキ屋には種類が豊富で結構迷ったが、アイツが一番好きな苺ショートにしてみた。
プレートはつけますか?
そうたずねてきた店員。
まあ、タダならいいか、と思いお願いしますと言ったのがいけなかった。
何これ超恥ずかしい!!
周りの人はジロジロ見てるし、近所のオバサンらしき人も何やら小声で話していた。
やっべ・・・アイツ歌舞伎町で顔が広いの忘れてた・・・。
羞恥に耐えられなくなってきた土方は、ケーキを受け取るとそそくさと店を出た。
もう日も暮れた。
あとは、これを渡すだけ。
「ゆっくり歩かねぇとな」
ケーキが崩れてしまわぬように、ゆっくりとした足取りで万事屋まで歩いて行った。
「俺ばっかりが喜んでお前は嬉しくねェのかよ?!・・・そんな奴とは思わなかった。もういい、俺は帰る。・・・こんなもんいるかよ!!!」
ベチャリ、という音と共に地面に叩きつけられたショートケーキ。
「・・・・・・・・・」
なぜこんなことになっているのか。
遡ること15分前。
万事屋についた土方は、これから何を言おうか、とそわそわしていた。
銀時がケーキを食べる様子が目に浮かんで、つい笑みが零れてしまう。
年に一度の誕生日なんだ。
今日くらい、憎まれ口は叩かないようにしとくか。
---トントン。
ドアを叩くと、案の定眼鏡が玄関から出てきた。
「あ、土方さん!きてくれたんですね!ちょっと待ってて下さい」
眼鏡はお辞儀をちょこんとすると、パタパタと居間の方へ走って行った。
「あ、れ?土方くん、どーしたの?」
ぽかん、とする銀時。
なるほど、俺が知っている事をこいつは知らねぇんだな。
「・・・えと、誕生日・・・おめでとさん」
そう言って銀時の前にケーキを突き出す。
「・・・・・・・」
銀時はただ黙って、それを見つめた。
「いや、てゆーか何で土方くんが俺の誕生日知ってるわけ?ストーカー?ケーキとかキモイだろ」
ハハッ、と笑う銀時。
俺の中の何かがキレた音がした。
そして冒頭に戻る。
ケーキが潰れたことなんかお構いなしに、俺は走って走って、とりあえず走った。
なんだよ、クソ・・・!
浮かれてたのは俺だけ、ってわけかよ。
----------------
「・・・あ・・・・・・・・・」
玄関にぶちまけられた苺ショート。
それを見ながら、銀時はぽつんと呟いた。
「ごめ・・・土方く・・・」
俺は正直になれないから。
俺は本当の事を言えないから。
俺は思ってもない事言っちまうから。
だから・・・だから・・・。
「土方くん・・・」
俺は、ギリッと歯を噛みしめたまま、走り出した。
-----------------
月が欠けている。
まるで俺の心みたいだ。
「・・・らしくねぇな」
こんな事で落ち込むなんて。
情けねェ・・・。
「・・・煙草もねェし」
カラになった煙草。
俺の心みたいだ。
全部が戒めのようにみえる。
「はあ・・・」
土方が深いため息をついた。
-------土方君
「・・・あ?なに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・銀時」
月の光に照らされながら、銀時の顔が映った。
今にも泣きだしそうなくらいに。
「あ・・・・・」
その証拠に、銀時は自分の着物の裾を必死に掴んで涙をこらえているように見えた。
「・・・なんだよ、」
「・・・ごめん」
「・・・なにが?」
「俺・・・お、思ってもねェ事言って・・・・凄く嬉しかったのに・・・!」
途中から声が震えた。
「・・・知るかよ」
そう言いながら、土方は銀時をぎゅうと抱きしめた。
「え、あ・・・・土方?」
顔を真っ赤にしてあたふたする銀時をよしよしと撫でてやる。
「・・・俺も悪かったな」
「ち、違・・・土方は悪くねェよ・・・俺、昔からこういうの・・・なんか慣れてなくて。ずっと一人だったから、なんか戸惑っちまって・・・・だ、だから・・・本当にごめん・・土方ぁ・・・」
そんな涙目で見つめられたら、許すしかないだろ?
「いいんだよ、別に。それより悪い、ケーキ・・・」
「あ、アレな。形は悪ィけど、食えるから帰って一緒に食おうぜ?・・・って俺のせいなのにな・・・」
えへへ、と一気に笑顔全開になった銀時。
ああもう・・・!!
「可愛い・・・!!」
キスしようとしたら、殴られた。
-----------------
「美味しかったああああ」
ぐちゃぐちゃになった苺ショートを完食した銀時は、凄く満足そうだ。
「馬鹿、太るぞ」
「銀さんは太りませんー!」
おりゃ!!と俺の上にダイブしてくる銀時。
「うぉ・・・内臓飛び出そう・・・!」
「嘘つくなよ土方くん・・・!俺傷つくなぁ」
「うるせぇよ。あ。銀時」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」
銀時は、ありがとう、と微笑んだ。
来年もこの笑顔が見れるならば・・・俺はまた、最高のプレゼントを贈るとしよう。
END