銀魂1

□居場所
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早く、皆の所へ行かなければならない。
どすっ

喉から出た鋭い刃。

嗚呼、刺されたのか。

調度良かったのかもしれない…。

血が噴水の如く飛び散って辺りを真っ赤に濡らした。

充満する鉄の匂い。

視界が、真っ赤になった。





『俺、絶対強くなって松陽先生を護るんだ!』 

『俺も!先生を護る!』

『約束な、高杉!』

『ああ!約束だ!』

いつだっただろう。

そんな約束を交わしたのは。

雨の日は、嫌いだ。

過去の記憶が蘇ってしまう。

忘れよう忘れようと思う度それは鮮明に蘇がえる。

雨に消されてしまいそうな自分の魂。

ごめんなさいごめんなさい。

俺は生きてちゃいけないんだ。

仲間を見殺しにした俺が、のうのうと生きてちゃいけないんだ。

























「銀ちゃん!!!」

「銀さん!!!」

「銀時!!!」

あ…れ…?

何で皆泣いてるの…?

何で俺は生きてるの…?

「ひくっ…ぎ、銀ちゃ…っ生きてて良かったアル…」

「そうですよ…っ銀さん、寝たきり3日も目を覚まさなかったから…っ」

神楽と新八が啜り泣いていた。

土方は、心配そうに顔を覗きこんでいた。

「3日…?3日前…は…」

思い出した。

3日前は、皆の…

「…松陽先生…」


嗚呼、そうか。

だから、変な夢を見て俺は倒れたんだな…。

「銀時…」

土方が、優しく俺を包みこむ。

神楽と新八も後ろから抱きついて、泣き出した。

目の前におまえらが居る。

それだけで安心した。

































「土方」

「ん?」

「俺、死にたくねぇよ…」

過去の事や夢の事、全てを話した。

話したら、少しだけ楽になって。

土方は、静かに涙を流していた。

流れる一筋の涙が綺麗で、暫く見とれていた。

「何で…泣いてんの…?」

頬を包んで、視線を交す。

「お前の傍に居ながら…彼氏で居ながら、お前の事を全然知れてなかった…そんな自分に腹が立ったんだよ。好きな奴一人護れねぇで…何が彼氏だよ…」

土方は悪くないよ。

そう言いたかったのに。

言葉よりも先に涙が溢れて頬を伝った。


土方は、こんなにも思ってくれている。

神楽も新八も皆俺の為に泣いてくれた。

なのに自分は、死にたいだなんて思った。

また、護られた…。

悔しくなって、拳を握りしめたら、血が滲んだ。

土方は無言でそれを指で拭いとってくれた。

涙が止まらなくて、息が出来なくて、土方の胸に探りついた。

涙や鼻水で隊服が濡れるのも気にしないで、頭を撫でてくれた。

ふと、鼻の上に一枚の桜。いつかは、散っていくのだろうか、俺も土方も…。

そんな最悪な未来を想像する俺に土方は言った。

「変な事は考えるな…」

「…うん」

「そろそろ、ガキんとこに戻るか」

俺は、静かに頷いた。






























「銀ちゃぁぁん!!」

「うぉっ」

神楽が鼻水を飛ばしながら抱きついてきた。

子供の様にわんわん泣く神楽を抱き締めて、大丈夫と嘆く。

神楽は大きな瞳を潤ませながら、背伸びをして俺の頭を撫でた。

…また、涙が溢れた。

一人だった俺に居場所をくれたのは、かけがえのないお前達だ。

人の心を与えてくれたのもお前達。

そう、俺はお前達無しじゃ存在しなかったんだ。

こんなに楽しい日常も、少し大変だった非日常も。

大切な思い出も、沢山の仲間も。

人を愛するという事も。

ありがとう。

何回お礼を言っても、きっと足りないだろう。




松陽先生、俺はまだ、そっちに行けそうにありません。

…護るものが出来ました。


だから、それまでちゃんと元気で居て下さい。

待ってますよ、と笑う松陽先生の声が聞こえた気がした。






END


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