銀魂1
□スイートビター
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2月14日、バレンタインデー。
いつもはチョコを人にあげたりしない。あげるわけがない。
だけど。今日だけは違う。
この思いを、君だけに。
スイートビター
「銀ちゃーん?何してるアルカ?イライラしてるアルカ?」
「してねーよ」
朝早くから台所に立って、大事な大事な俺のチョコをガンガンと砕いている。
別に、頭に血が上ったとか、そんなのじゃない。
「じゃあ何してるアルカ?」
「んー・・・何って、そりゃぁ・・・・・・」
なんだか自分で言うのが恥ずかしくなって、また視線をチョコに戻す。
「隠し事アルカ!銀ちゃん酷いアル!」
神楽は頬を膨らませて俺の足にしがみついてきた。
「いや、だから、その・・・チョコだよ、バレンタイン!」
「マヨラーにアルカ?」
「う”・・・・・」
土方ってスグにバレて、うろたえている俺に神楽は女王はお見通しネと、一言嘆いて部屋に戻った。
「・・・ふぅ」
神楽も居なくなったしチョコも砕けたので、溶かす作業へと移すことにする。
この前書店で、恥ずかしくも買ったバレンタインチョコレシピを見ながらアイツの事を考える。
喜んでくれっかな、ちゃんと食べてくれるかな。
とりあえずビターにしたので、味の心配は特にない。
見返りなど望んでいるわけでもなくて、ただ、単純に、アイツの笑顔が見たい、と、それだけだった。
+
「副長ーーッ!お客さんですよ!」
「あぁ、いま行く」
仕事中だというのに、さっきから客ばっかり。
これじゃあ仕事が片付かない。
今日はバレンタインだから、早く終わらせて銀時の所に行こうと思っていたのに。
「土方はん、これ」
「ん?」
本日8個目のバレンタインチョコ。
気持ちは嬉しいが、やっぱり受け取れない。
「・・・すまねぇな。もらうのは一人だけって、決めてんだ」
銀時のチョコ以外には、何もいらない。
それに、銀時という存在がありながら他の奴からチョコを貰うのが、許せないと感じたのだ。
だから、さっきからそれの繰り返し。
仕事もへったくれもないので、近藤さんに頼んで、市中見回りに行かせてもらう事にした。
が、それがいけなかった。
「土方はん!」
「チョコですぅ〜」
「一緒に居てもいいですか〜?」
予想もしなかった大勢の女達が、俺の周りを取り囲んだ。
断る前に、声も出せない状態で。
ただただ女達に顔を擦り付けられるしか無かったのだ。
+
「ひじ、かた・・・?」
チョコも作り終わったので、屯所に持っていこう。
そう思って、恥ずかしいけど可愛くラッピングした。
ちゃんとハートにした。
勇気も出した。
なのに。
なのにどうして、お前は女に囲まれてチョコを受け取っているの?
何で拒まないの?
俺の事なんか、どうでもいいの?
所詮は、女なの?
確かに俺には、胸もないし可愛くないよ。
だけどお前、一年前の桜の下で、言ってくれた。
「誰よりも愛してる」って・・・。
あれは嘘だったの?
俺の片思いだったのかな?
すべてをマイナスに考えてると、嫌でも涙が溢れて来て、チョコの上に雫が出来た。
悲しい。
それだけが心を支配していた。
ふと、土方を見ると土方も俺を見ていて。
たまらなくなって、その場を走って駆け抜けていった。
手から零れ落ちたチョコの事も気にせずに。
+
女達に囲まれている間、銀色を見つけた。
そいつは俺と視線を合わせた後、この場を走り抜けていった。
とても、悲しい顔だった。
瞳から、一筋の涙を流して、奴は消えた。
「銀時・・・」
その跡には可愛いラッピングのされたチョコがあって、土方へ、と書いてあった。
あいつの気も知らずに、俺はチヤホヤされて。
もっと強く振り切れば良かったんだ。
「どけ・・・っ!」
無理やり女達をどかせて、万事屋に走った。
+
「どうして・・・」
万事屋に戻ってから、チョコの存在に気づいた。
馬鹿みたいに浮かれながら作ったチョコ。
何度もやり直して、気持ちを込めて作ったチョコ。
ドキドキしながら街に出たのに、目に広がったのは嬉しそうな土方。
心が凍り付いて、動けなくなった。
「土方・・・」
俺はまた、涙を流していた。
嫌い、嫌い、大嫌い・・・!!!
土方なんか、嫌い・・。
なのにどうして、涙が溢れ出すんだろう。
今日は幸せな日にしたかったのに。
ピンポーン
万事屋のチャイムが鳴り響く。
それさえも雑音に聞こえて、頭が痛くなった。
涙を拭って、重いからだを立ち上がらせ、玄関に向かった。
「はいはーい・・・」
扉を開けたら、隊服のままの土方がいた。
息を切らせて、汗を流していた。
走ってきた事が十分分かる。
「・・・何」
「銀時・・・っごめん・・・」
万事屋にくるなり、アイツは誤り続けた。
「本当に、ごめん」
「・・寒いだろ。とりあえず入れよ」
中に入れて、話を聞いた。
+
「そっか・・」
とりあえず、安心した。
土方は悪くない事も、大事にしてくれたことも分かった。
だけど、
「女達なんか・・押しのければ良かっただろ」
「銀・・」
「俺、あの現場見て、周りにいる女達全員に嫉妬したんだ・・・」
それは、事実。
本当に、嫉妬した。
女達全員に怒りが込み上げてきて、恐ろしい事も考えた。
「銀時・・お前だけだから、な?」
「うん・・・じゃあ、土方っ・・・ぎゅってしてよ・・・」
そう呟くと、無言で土方は力いっぱい抱きしめてくれた。
温かい。
「俺も、ごめんね・・・チョコ、落としてきちゃった・・・」
銀時は申し訳なさそうに言った。
「これだろ?」
鞄から、銀時からのチョコを取り出す。
汚れていたり潰れていたりでメチャクチャだけど。
「なんで・・・それ・・・」
「落ちてた」
「落ちてた?!」
「んで、拾ったんだ」
「駄目だよ・・・捨てて・・・汚い・・」
「馬鹿かお前は」
銀時の頭をペシッと叩いてこう続ける。
「お前の心は、綺麗なままだろ。それに、形は悪くても味は変わらねぇ」
「土方・・・」
銀時が不安にならないように、微笑んでまた抱きしめた。
「食べてもいいか?」
「え、あ・・・ちょっと、貸して」
銀時はチョコを受け取ると、
「はい、アーンてして」
「はぁぁ?!」
「早くぅ」
「ん・・あ、あーん・・」
パクリ、とチョコを入れられる。ほろ苦い感じで、おいしい。
「・・銀時の味だな。煙草やめて、チョコ食べようかな」
「・・・馬鹿」
二人で笑いあってから、愛を確かめ合った。
少し残念だったけど、いいバレンタインになったな。
俺たちも甘くて苦いチョコみたいに、幸せな時を刻めるといい。
ずっとずっと、永遠に。
「これからもずっと一緒にいようね、土方っ」
END