銀魂1

□電話と勘違い
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大切だからこそ不安なのに
 ただの心配性じゃないのに
  恋しくて苦しいだけなのに


勘違いしてたなんて―‥


電話と勘違い




「ん〜っ…」


目が覚めて時計を見ると、7時ピッタリ。なんだか良い事がありそうな予感だ。

ふと、体の温もりに気付いて下を見る。

俺の横にはおっきな長い枕。

いつも寝る時は、手と足の間に挟んで、ぎゅっと抱き締めている。

これは、土方がロフトに行って買ってきてくれたもので、土方はここに来るたび自分も枕を抱き締めて、匂いをつけていく。

そのせいか、最近目覚めも良く、寝付きやすいのだ。

「土方…」

なんだかアイツの事を考えると、急に胸が熱くなってどうしようもなく逢いたい気持ちになってきた。

そうだ、調度いい。

枕の話とか今日は目覚めが良かったとか、そんな事を理由に、電話してみよう。

ちなみに、その携帯も土方がくれたもので、アドレス帳にも土方の名前しか入っていない。

つまり、アイツ専用の携帯ってわけだ。

そして、俺が白で土方が黒お揃いにしたいってうるさかったなぁ…それでお前からメールしろ、ってラブコールまで求めたりして。

今考えても笑える話だと思う。

「…さてと」

早速電話してみるか。

軽い足取りでリビングに向かって、携帯を手にとる。

あっ…そういえば、この携帯、常に持ってろって言われたんだった…。

今度から気を付けようと思いながら、一つしかない電話番号を選んでボタンを押す。

何の話しようかな。

長電話になるかもな。

銀時、って朝イチで呼んでほしいな。

だけど、そんな思いとは裏腹に相手は電話に出ない。
…可笑しいな。

いつもは、すぐに電話に出てくれるのに。

まだ7時だし、寝てるのかな。

真選組の仕事が夜遅くまで長引いたのかも…。

仮にも、副長様だからな。
土方の仕事の邪魔はしたくないので、颯爽と電話を切って、元あった場所に戻す。

少し残念だけど、しょうがない。

多分、あとで着信があった事に気付いて掛けなおしてくるだろう。

さて。

何もすることが無くなったので、仕事を頑張ってもらうために、銀さん一肌脱ごうと思います。

これでも器用だから大丈夫だろう、多分。…多分。

「銀ちゃんおはようネ」

「ぅおっ!神楽?!」

いつの間に背後に…;

「あー…おはよ」

頭を掻きながらそう言うと神楽は一瞬考える素振りを見せて、こう答えた。

「私にはお見通しアル!」人差し指を向けて、いかにも探偵気分で変な事を言う神楽。

一体何が分かったんだよ。

まだ飯が炊けてない事か?

「銀ちゃん、朝から良い事あったアルな、マヨに関係してることヨ」

「えっ…」

寧ろ、悲しかった気が…。

あぁ、枕とかの件では、嬉しかったな。



「銀ちゃんが朝早く目覚めてリビングに来て何かしてる時は、大抵良い事あった後アル。マヨ関係の」

「流石だな…まぁ、大方正確かな…」

「ちょっとは恥じれヨ」

そんな言葉は無視して、早速作業に取り掛かる。

「銀ちゃん何作ってるアルカ?家計簿書いてるアルカ?」

「ウチに家計簿に書けるほどの金はねぇよ」

「じゃあ何作ってるアルカ」

「秘密だ」

さぁ、夜までには仕上げる為に頑張るぞーっ

心の中で叫んで、また作業を再開する。

…土方、喜んでくれっかなアイツが嬉しい顔するのが浮かんで、ついつい顔が歪んでしまう。

我ながら情けない。

「っ…!」

っつーかイキナリ指にぶっ刺さってるし…。

血ィ出てるし…。

痛いんですけどーっ?

「…………」

誰か絆創膏!!

絆創膏持ってきて下さいィィィ!!って今スグ叫びたいけど、席を立ったら神楽が飛んできそうだから却下。

だからと言って新八はまだ来てねぇし……。

「んぅ…」

ちゅぅっと自分の指を口で吸う。
舐めときゃ治るっていうし、大丈夫大丈夫。

でも開始5分でこのざま。しかも土方から何時電話が来るかも分からない。

家に直行飛んでくるかもしれない。

…ま、考えるより行動だな。

「……………」

晩ご飯が終わり、風呂にも入り終わり、皆それぞれ自由時間中。

「電話……」

電話が来ない。

気になって着信履歴を見るが、掛けてきた様子はなく例の品物もとっくに完成している。

…可笑しい。

もう一度、電話してみるか

「…………」

やっぱり、出ない。

よくドラマであるあれだろうか。

…浮気?

土方、モテるもんな。

美人に迫られたりしたら、俺より女がいいに決まってる。

大体、アイツが俺を選んでくれた事が奇跡だし、間違ってたのかな。

もう、俺はいらないの?

そんな嫌な考えだけが頭を過っていく。

「……アレ?」

気づいたら、涙が流れていた。ポタポタと、床を濡らしていく。

「土方…っ土方ぁ…」

逢えないだけでこんなに悲しいなんて。

たかが電話だけで。

1日声が聞こえないだけで…弱くなったな。

いつから、だろう。こんなに人恋しくなったのは。

アイツと恋してから、ちょっとした事で喜んだり、ちょっとした事で泣いたり。

気にもしなかった誕生日とかクリスマスとかバレンタインとか。

1日1日が大切な日に変わっていた。

だからこそ、不安もある。

そもそも男同士だから、周りからの目も冷たい。

だけど、違った。

神楽も新八もお妙も沖田くんもゴリラも皆、幸せを祈ってくれた。

…嬉しかったんだ。

アイツは公衆の面前でも、手ェ繋ごうとしてきたり、キス仕掛けてきたりして、俺はいつも恥ずかしいから止めろ、って拒んできた。

だけど、今度は俺からしてみようかなって、そう思えるようになってきた。

…また会えたら、だけど。

「…………」

やっぱり、逢いたいな…。

声が聞きたいな…。

「うぅ…」

もう、寝よっかな…。

床につこうとすると、万事屋のチャイムが鳴る。

しかも、連続で。

「はいはーい…夜遅くに何ですかー」

「……よォ」

「…え。土方…?」

な、何で今ここに…?

しかも、汗すげぇかいて、息乱れてる…。

走ってきたんだな、隊服のままだし。

それより…

「……………」

土方の肩に顔を押しつけてぎゅぅっと抱きつく。
あぁ、温かい…。

「ばかばか、何で電話出ねぇの…っ」

なんだか、また涙が溢れてきて床に落ちる。

それを土方は優しく拭って、また抱き締めてくれる。

「御免な、銀時。屯所内で通信障害が起きちまってよ…今治って、今気付いたんだ今頃泣いてるかもと思ってたら、本当に泣いてた」

土方は微笑んで、もう一度御免な、と謝る。

「もういいよ…逢いにきてくれただろ」
な?と、こっちからもはにかんで、着物の裾からある物を取り出す。

「ん?何だソレ」

「俺の手作りだ」

そう言って、ポイッと投げる。

土方はそれをキャッチすると、まじまじと見つめやがて、笑った。

「俺とお前の人形、だな?しかも後ろには¨ずっと一緒に居てください¨なんて可愛い事書きやがって」

くしゃくしゃっと髪を撫でられて赤面する。

「ありがとな、銀時‥携帯にでもつけておくからな」

「………うんっ」

やっぱり今日は、ハッピーだ。

逢えなかった分、今はとても幸せ。

こんな幸せがずっと続くといいな‥。

そんな事を考えながら、甘い甘い土方のキスに墜ちていった。





END


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