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□crazy moon
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俺とお前では、目指す場所が違うんだ。

俺は…お前をこっちの道へは連れていけない


お前は優しいから、人を殺すなんざできねェだろ?

だから、俺は行く。

…ずっと、好きだぜ、銀時。












crazy moon





攘夷戦争の真っ只中、激戦区から生還した高杉は、体がボロボロなのもお構い無しに、銀時が待つ部屋へと行った。



「入るぜ」



高杉が言うと、銀時は「うん」と返事をする。

「高杉…そっか、無事だったんだな」

銀時が安堵の笑みを浮かべる。

「鬼兵隊は?どうなったんだ?」



「………」



高杉が押し黙る。

空気がどっと重くなって銀時は悟る。

少なくとも、隊の半分は…あるいは、壊滅。



「…銀時ィ」



「なんだ?」

「お前は、どうする?この戦争が終わって、俺らが負けて、天人に護ってきた国支配されて…お前は、どうする?どうしたい?」

高杉が苦虫を潰したような顔で言った。

俺は、そんな高杉の顔を見たくなくて、顔を背けた。



「なに…弱気な事言ってんだよ」

「だって、そうだろ?それともなんだ?お前は、俺らが勝てると思ってんのかよ。鬼兵隊だって、壊滅した。俺を含めて3人しか生き残らなかったんだ」

「……だからって、諦めちゃなるめぇよ。俺達が…俺が護れなかった奴に、地獄で笑われちまう…」

銀時は高杉の着物の裾をきゅっと掴む。

「…銀時?」


「高杉は…さ、戦争が終わったら、またどっかに行くんだろ」


「……あぁ」


「…また俺を置いていくんだろ」


「……あぁ」

「分かってるんだよ、お前と俺が違う事くらい…っ!!」

銀時が唇を噛む。

少しだけ、血が滲み出た。



「俺…は…高杉と一緒に居たい…どんな場所でもいい!だから、だから…」



銀時の声が次第に小さくなっていく。

高杉は、笑み一つ浮かべずにそこを立つ。

「…高杉っ?」


「お前を連れてはいけねェ。どんなに請ったところで、気持ちは変わらねェよ。…俺は、お前が嫌いだ。だから


…ついてくるな」


ピシャリと放たれた言葉に、銀時は絶句する。

やがて、ぱたんと襖が閉められた。



「…たか…すぎ…っ」



銀時は、自分の弱さに涙を流した。

俺がもっと強かったら。

結果は…変わっていたかもしれないのに。

鬼兵隊が壊滅したのも、俺のせいだ。

あんな激戦区に出向かせた自分が憎い。

止めれば良かったのに。

撤退命令を出せば良かったのに。

今だって、高杉に泣いてすがれば良かった。

なのに、動かなかった。

…動けなかった。

これ以上拒絶されたくない。

高杉にいくら嫌いと言われようと…俺は…。



「……高杉ぃ…」


月明かりが照らす部屋で、銀時はただ涙を流していた。













月日は流れ、高杉から突き放された一週間後の出来事だった。

「降伏…した…?」

「…ハッ、ヅラァ…ちょっと冗談が過ぎるんじゃねェのか?」

高杉と銀時が言うと、桂は苦しそうな顔で続ける。

「…本当だ。将軍が…天人を恐れ、俺達を捨てたんだ…もう、俺達に刀は持てない…天人に逆らえば、それこそ幕府が動く…」

「……なんだってんだよ!!!!」

高杉が怒りのままに地面に拳をぶつける。

血が流れ出ても、お構い無しに殴り続ける。

「俺は…!!!死んでいった仲間の為に戦ったってのに…降伏だァ?!笑わせんな!!!それじゃあ俺達が今までやってきた事はなんだ?全部水の泡じゃねェかよ!!!!!」

ガキッゴスッと骨が砕けるような音がする。

ああ…終わったんだ…。

俺達に染み付いた血の匂いは…一生消えないだろうな。














その後、高杉は姿を消した。




























勿論、俺には何も言わないまま。

でも、それでも…俺は、あの冷徹な男が好きなんだ。

ずるい。

高杉は、ずるいよ。
















よォ、元気にしてっか?

多分、お前がこの手紙読む時には、俺は居ないだろうな。

…俺は、お前が嫌いだ。

だから、ついてくるなと言った。

ちゃんと言い付けを護ったんだな。

…俺はな、銀時。

幕府が憎いんだよ。

何も知らねェくせに。

俺達の想いなんて、苦しみなんて知らねェくせに。

なァ…狂ってるよな。

幕府も、俺も。

俺は、これから幕府に反発して、鬼兵隊を復活させるつもりだ。

お前を犯罪者にさせるわけにはなるめェよ?

…分かってくれ。

俺は、お前とは一緒にいられない。

隣に居る事すら、許されねェ事なんだ。

でも、信じてほしい。

俺は…屍になっても、首切りにされても…どんなに醜い姿になろうと、







ずっと、お前を愛してる。







幸せになってくれ、銀時。それが俺の望みだ。

高杉晋助


























あれから10年。

白夜叉として名を馳せた銀時は、江戸の歌舞伎町で万事屋銀ちゃんを経営している。

平和な日々。

銀時はコンビニでジャンプを買うと、家路に向かって歩きだす。

月が綺麗な夜だった。



「銀時」


手から擦り抜けていくコンビニの袋。

バサッと地面に落ちた。



「銀時」




狂気を含んだ、憎くて、大嫌いな…愛しい人の声。


「迎えに来たぜェ…?」


大嫌い…お前なんか…



「…っ、大好きだ…高杉」


満月の夜、狼とシンデレラは、優しくて甘いキスをした。




END


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