2

□月見酒
1ページ/1ページ


1人、草原で月見酒。

月に見惚れ、酒に酔っていた俺は、背後に忍び寄る気配さえも感じ取る事ができなかった。

「銀時」

耳のすぐ近くで、見知った声がする。

息が耳にかかってくすぐったい。

「なんだよ…高杉、来てたのか」

銀時がほんのり頬を染めながら振り返った。

高杉は、振り返った銀時の髪をかきあげると、額にちゅ、とキスを落とす。

「ん…」

銀時は気持ちよさそうに目を細めた。

「高杉…もっと…」

そう言って手を伸ばしてくる銀時を、優しく抱き締める。

ふわりと香る甘い匂い。

高杉は、銀時の着物に身を埋めた。

「…高杉?どうした?」

「…別に。こうしたかっただけだ」

高杉は銀時の頬を手に包むと、ついばむようにキスをする。 



ちゅ、ちゅ、と角度を変えながら、舌を入れ込む。

「んん…ふぁ」

銀時は舌の動きに翻弄されながらも、自分の舌も必死に動かす。

それが可愛くて仕方ない高杉は、銀時の頭を撫でた。

「たかすぎぃ…会いたかった…会いたかったよぉ…っ」

俺な、夢を見たんだ。

お前が俺を殺す夢。

でも、なんでだろうな、嫌な気はしなかった。

お前は…前、俺に殺したいほど愛してるって言ってくれたよな。

すげぇ嬉しかった。

お前になら…殺されても構わないかもしれない…。

「バカ、泣くなよ」

高杉はポロポロと涙を溢す銀時を慰めた。

高杉とは、会いたくても会えない。

幕府から逃げ回って京にいる高杉は、なかなか江戸に来れなかった。

だから、銀時はいつも嫌われたんじゃないか、と心配するようになったのである。

そんな、まるで蝶みたいな高杉は…本当に、まれにしか来ない。

ひらひら飛んできては、すぐにひらひらと去っていく。

今でさえ、高杉に会ったのは半年ぶりだ。







「高杉…」

会った時くらい…甘えてもいいよな…?

俺は我慢してきた。

どんな時だって、高杉一筋だったよ。

辛い時だって、高杉の事を考えれば乗り越えられた。

「銀時…愛してる」

そっと口付けされて。

俺はぎゅっと着物の裾を掴んだ。

たった5文字の言葉に、俺は嬉しくてまた涙を溢した。






それは、まだ俺たちが子供だった頃の話。

先生が、誰かを連れてきたらしい。

そいつは、銀髪で、紅い目をした…第一印象は、正直不気味な奴だった。

話し掛けてやっても無視するし、居眠りばっかしてやがるし、なのに何故か皆、そいつを気に掛ける。

それが気に食わなかった。

「なァ」

「………」

「おい!聞いてんのか?!」

「………ぇ」

「あ?」

「…うるせぇ、耳が痛い」

ムカつく。

何でこんなやつが。



「テメェ、いい加減に…」

高杉が言い掛けた時だった。

ドン!!!と激しい音を立てて扉が破壊される。

壊れた扉からは、刀を持った大人3人が険しい顔で迫ってきやがった。

「おい、ガキィ…その銀髪、渡してくんねェか?」

その中の1人が口を開く。

手に、鞘の抜けた刀を持ちながら。

高杉は反射的に、銀髪の前に庇うように出た。

「なんだァ?ガキが一人前にガキ護ろうとしてんじゃねェよ!!!」

刀が降り掛かる。

でも避けなかった。

避けたら…コイツに当たるだろ?

名前なんか忘れちまったけど、なんでだろうな。

俺はコイツを、護ってやりたいと思った。

「………ッッ!!!」

刀は、俺の上半身を斬り付けた。

ドクドクと血が出て止まらない。

後ろで銀髪が震えてる。

「うぁ…ぁ……たか…」

そんなに…泣くんじゃねェよ…。

お前は悪くないだろ。

さっきからお前の涙が顔に落ちてくるせいで、眠れねェじゃねェか…。




「たか、すぎ…」

銀髪が本格的に泣き始めた時。

「───止めなさい」

沈黙を破って、松陽先生が来てくれた。

「あ、アイツって、吉田松陽じゃねェか?!」

「まずいな、逃げろ!」

大人3人は、松陽先生が来るとたちまち逃げ帰っていった。

「晋助!銀時!」

俺たちは、間一髪のところで助けられた。






「ひっく……っ…っ」

誰かが泣いている。

そんなに泣くなよ。

男だろーが。

「俺の…せ…で…」

「…お前のせいじゃねェよ、俺が護っただけだ」

「…どうして護ったんだよ…」

「…俺がお前を護りたいと思ったからだ」

「………………」

「これからも俺が護ってやる。だから泣くんじゃねェ」



  



俺はどんな時だって、テメェの隣にいるから──…




















「高杉のバカ、嫌い」

銀時がぷぅ、と頬を膨らませている。

「な、なんだよ急に」

高杉は頭上にはてなを浮かべながら、銀時の顔を覗き込んだ。

「ずっと隣に居るって約束したのに、バカ、アホ、変態、鬼畜、たかすぎなんかきら…」

高杉は銀時の目の前まで顔を持ってきてから言った。

「俺のこと、嫌いなのか?」

「うっ…………好き」

銀時は照れながら、またそっぽを向いてしまった。

可愛い可愛い銀時…。

「俺も、好きだ」

高杉の言葉に、銀時は嬉しそうに微笑んでいた。




END


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ