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□一生隣でずっと笑って
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「別れよう」

何の前触れもなく突然つかれた言葉に、流石の俺も硬直する。

は?

何だって?

今なんつった?

銀時の言葉が理解出来ない。

俺は煙草を吸うのを止めると、再び問いただす。

「別れる?」

「うん、別れよう」

銀時はあっさりとそれを承知した。

その瞳に迷いは無い。

でも、なんでだ?

俺、何か悪い事でもしたか?

それとも、どこか気に入らないところがあるのか?

「なァ、銀時」

「万事屋だ」

キッと鋭い眼差しを前から感じる。

もう他人扱いかよ。

おまえの中の俺はそんなに軽いやつだったのか?

それとも、最初からコイツの気紛れだったのか。






「…銀時、何で別れるんだ?意味わかんねェ」

「万事屋だって言ってんだろ。テメェに馴々しく名前呼ばれる筋合いはねェんだよ!」

銀時と呼べば急に荒々しく怒鳴りだす。

きっとどうかしてる。

…狂ってる。

「はは、何?土方くんが飽きちゃったから別れるの。傷つくから言わなかったのに」

銀時は残酷な笑みを見せて笑った。

お前の笑顔はそんなんだったか?

もっと憎たらしそうにきれいに笑ってたじゃねぇか。

「……もう、駄目なんだ。俺はお前に飽きた。お前はもういらねェ。…帰れ」

「…………」

「さっさと帰れ!!」

銀時が怒声をあげる。

俺は、ぐちゃぐちゃの頭で万事屋を逃げるように後にした。

夜の歌舞伎町を歯を食い縛って走る俺は、まだ何も…何も知らなかった。

何も分かってないのは…俺だったんだ…。










「トシ」

「あ?なんだ、近藤さん」

自室で煙草を吸っていた所に、ノックをして入ってくる。

「…………?」

その表情は、真剣そのもので。

いつもの雰囲気じゃない。

俺は不思議に首を傾げた。

近藤さんは、一回どもると、スゥと口を開ける。

「単刀直入に言う。……副長を、降りてくれ」

「……は…?」

まるで時が止まったような衝撃が俺を襲った。

事態が飲み込めなくて頭が混乱する。

副長を降りる?

なんで?

どうして?

「おまえは、明日決行する任務を果たすことが出来ない。そうなれば、真選組から消される。…そうなる前に、任務をしなくてもいい隊士のところについてもらおうと思う」

近藤さんが掻き消すように早口で言った。

なんだよ…それ…。

意味分かんねェよ。

「っ、その任務って何なんだよ?!」

俺は身を乗り出す。

でも、近藤さんは何も言わない。

歯をギリギリと噛み締めて下を向いていた。

どう考えても冗談には見えない。

近藤さんはこんな嘘を吐くような人じゃない。

瞳の奥深くに見える微かな光の粒をゆらゆらさせながら…近藤さんは立ち上がった。

「…近藤さん!!」

俺の叫びもむなしく、近藤さんは背を向けて自室を後にした。

最近になって連続で起こる不幸。

今まで殺してきた奴の因縁かなんかか?

俺の大事なモンを、全部もっていってしまう。

俺は…一人だ。

なぁ…ずっと俺の隣に居てくれるって言ったじゃねェか…銀時…。


















次の日。

副長の席には、沖田が居た。

大体予想はしていたが、アイツは俺の心もしらず、ニヤニヤとしている。

はいはい良かったな、夢が叶って。

別にもう、どうでもいい。

全てに見放されたんだ、生きる価値なんてねェよ。

「土方さ…土方ァ、巡回の時間でさァ」

「…あぁ」

そういや、今日は巡回の日だったな。

歌舞伎町に出て町を回る。

俺の位置は、後ろの方にある。

いつもは、先頭で歩いていたのに…。

「…………」

微かに込み上げてくる、感情。

怒り、悲しみ、憎しみ、色んな思いが交差する。

「あ、旦那ァ」

ピクッと反応する俺は、まだ未練たらたらなのかもしれない。

総悟は、

「あ、沖田くん」

キラキラ光る銀髪と、どうやら立ち話を始めた。

久し振りだ、顔を見るのは。

だけど少し、細くなったな。

顔も心なしかやつれているように見える。










「あ、そうだ旦那。土方さんが副長の座から降ろされたんですぜィ」

総悟がうれしそうに銀時に言った。

「へぇ。それで、この前神楽がさ」

銀時は興味がなさそうに、次の話題へ切り替えた。

胸の奥がチクチクする。

今、目の前にいるのに抱き締められない。

触れることも、名前を呼ぶことも出来ない。

ただの、他人。

「…なぁなぁ、おまえ知ってるか?」

「なにを?」

暇になってきた隊士達が、各々話しだした。

俺は喋る気力もないから、話を聞くだけにした。

「あそこで沖田副長と話してる銀髪の男な、今夜殺されるらしいぜ」

「知ってる知ってる!しかも仲よさげに話してる沖田副長がだろ?」

「副長の仕事らしいからな…」

「過去の文から白夜叉っつーのがあの銀髪って事が判明した上、最近色んな事件に顔つっこんでるからだよ」

は?

銀時が殺される?

今夜殺される?

俺の頭は、またぐちゃぐちゃに掻き乱された。

どうして、銀時が。

どうして、沖田が殺すんだよ。

皆銀時がなんだかんだいって好きだったはずだ。



『お前は明日決行する任務を果たすことが出来ない』

『副長の仕事らしい』

『俺はお前に飽きた』

『副長を降りてくれ』

全てのピースが徐々に集まりだす。

銀時は、殺される事を知っていた。

殺すのは副長の仕事だから、近藤さんはわざと副長から降ろした。

俺が殺さなくていいように。

そして、沖田が銀時を殺した後、俺が沖田を恨まないでいいように、銀時は俺を酷く突き放した。

全部俺の勝手な解釈だ。

だけど、そう考えると全部本当に思えてくる。

俺は、銀髪の所に駆け寄った。

「………」

俺が傍に言っても、表情一つ変えずに視線も合わせようとしない。

ズキズキと胸が痛む。

「…沖田副長、すみません」

俺はプライドも全部捨てて、銀時を路地裏まで引っ張っていった。





「何するの?痛いんだけど」

銀時が冷めきった表情で吐き捨てた。

俺は掴んでいた腕を更に強く握り締める。

「…お前、細くなったな」

「そんなのまで監視してんの?キモチワルイ」

「違うっ、俺はっ、」

「寄らないでよ」

「……銀時」

「名前で呼ばないでくれる?土方さん」

「……護ってやる」

「は?」

「俺がお前を…護ってやるからっ…」

「……………」

「そんな悲しい顔すんな…お願いだから、ち
ゃんと食事も取ってくれ…」

「なんで他人に指図されなきゃなんねぇの?」

「・・・・・・銀時、」

「呼ぶな」

「銀時」

「・・・呼ぶなって言ってんだろうが!!」

「お前が俺を思ってあんな嘘言った事、もう知ってんだよ・・・」

「・・・・・・・・」

瞬間、銀時の表情がピシッと固まった。





やがて、銀時は小さく口を開いた。

「・・・なんで・・・?」

「さっき、隊士たちが話してるのを聞いた」

「・・・・・・」

「・・・銀時?」

「お前なんか・・・お前なんか大嫌いだよ、ちくしょぉ・・」

ズルズルと壁にそって、銀時は倒れこんでいく。

嗚咽をあげながら、ひたすら泣いている。

「俺はっ・・・お前を・・・っく・・・ひくっ・・・」

「・・・大丈夫、だから・・・銀時」

俺は、泣きじゃくる銀時の頭を優しく撫でた。

「お前が・・・・俺を嫌いになったら、俺が死んでも悲しまないだろうって・・・なのにっ・・・」

ポロポロと涙をこぼす銀時を見ていられなくて、俺は銀時の華奢な体を抱きしめた。

優しく、壊れないように。

「・・・・・・・・・ひじかた・・・俺、死にたくない・・・・・」

ポツンと漏らした銀時の本音。

俺は静かにうなずいた。

「お前を殺すなんてこと、しない。・・・一緒に、逃げよう」

土方の言葉に、銀時はくしゃっと笑った。




白夜叉こと坂田銀時の暗殺、失敗。

今後も捜索を続ける所存。

「・・・トシ、万事屋」

近藤さんが柔らかい笑みで二人の頭を撫でた。

「・・・元気でな」

その表情は、ほんの少しだけ、悲しそうだった。

でも、俺たちの決意は揺るがない。

「土方さん、俺ァ今、あんまり嬉しくないんでさァ」

「?なんでだ?」

「俺は、土方さんから強引に副長の座を奪い取りたかった。・・・でもしょうがないですねィ、俺は俺で頑張りまさァ。・・・また帰って来た時は、・・・いや、何もないでさァ」

総悟は、ニカッと笑って手をブンブン振ってくれた。

俺たちは、幕府のお偉いさんの目につかないような田舎に移動することにした。

万事屋の子供たちは、理解してくれて送り出してくれる。

「悲しいけど・・・銀ちゃんを幸せにしろヨ!マヨラー!!」

「銀さん、土方さん、幸せになってください。いつでも帰ってきてくださいね。貴方達の帰る場所は、ココですから」

神楽と新八の言葉に涙して、また泣きだす銀時。

ここを離れるのが悲しいのは分かってる。

「好きなだけ泣け、銀時」

ポンポンと背中を叩いてやると、安堵した表情を見せる銀時。

すごく、美しいと思った。

「さ、行くか、銀時」

「うん」

色々な障害もあるけど、だからこそ燃え上がる。

そんな人生の旅も、悪くないかもしれない。

「・・・ひじかた、すき」

とにかく俺は、コイツが隣で笑ってくれればなんでもいいんだ。

「俺も、愛してる、銀時」

俺たちの物語は、まだ始まったばかりなんだ。



END


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