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□俺はお前を、
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「おぉ!新刊出てる!あっ、個人作家集とアンソロジーも!」
いそいそと店内を歩き回るのは、親友の銀時。
奴は男のくせにBLとかいう漫画や小説が大好きらしい。
アニメ好きなだけなら理解はできるが、それがBL好きとなると、凡人の俺には到底理解のしようがなかった。
今日は、新刊チェックとかなんとかいって、銀時の買い物に付き合わされている。
要するに荷物の運び役だ。
俺は退屈しのぎに傍らにある本を一冊取ってみた。
「げっ」
それは、偶然にも銀時が好きそうな画風のBL本だった。
きめ細かい色使いで、どこか色香を漂わせるような、不思議だけどとても引き付けられる絵。
表紙は、同じくらいの背丈の白髪と黒髪のもので、俗にいう受けの男というのは、髪の毛がくるくるはねてて愛らしい表情をしていた。
一方黒髪の奴は、切れ目の長細い眼差しで、整った顔立ちをしている。
…ん?アレ?何このデジャヴ?
「誰かに似てるな…」
ボソッ、と呟くと、
「ひーじかーたくん」
いつの間にか、銀時は後ろに来ていた。
「似てるって何のコト?ん!つかそれBL本じゃねェか!」
俺の方を見るなり、銀時は本を手から奪い取り、まじまじと見つめだした。
「…………」
「……おい、土方」
「……なんだ」
「…これ、誰かに似てねェ?」
互いに冷や汗を流しながら苦笑いする俺たちは、さぞ奇妙な目で見られていることだろう。
やがて、銀時が口を開いた。
「よ、よし!誰に似てるか同時に言おうぜ!」
「お、おぅ!ちゃんと言えよ銀時っ!」
「わーってるよ!はい、せーのっ!」
『お前!!!』
声が重なり合った瞬間、俺たちの表情は固く後ろめたいものになっていった。
「…………俺、この本買ってくる」
「……ああ」
銀時は妙な表情をしながら、会計を済ましにいった。場所は変わって、土方の自宅。
二人は、先ほどの本を開封し、中身を開いた。
それでわかったこと。
白髪の名前は道坂時夜、黒髪の名前は西方四郎。
白髪の好きな食べ物は甘味、一方黒髪は生粋のケチャラー。
しかも、服装はウチの制服に似ていて、年齢は俺たちと同じ。
「…………銀時」
「あ?な、なん…!!!」
土方は漫画の後半あたりのページを見せた。
それは、二人の初夜のカットで…。
「やっぱ似てるよなァ…」
「こ、こんな偶然って絶対ねぇよ!誰か俺らを監視して…つか俺読むのは好きだけど実際はそんな…」
銀時は恥ずかしそうにチラ、とこっちを見た。
「そうだな、気持ち悪ぃ」
…俺は銀時が好きだ。
だけど、そんな気持ち、伝えられない。
伝えたら…きっと、崩壊してしまうから。
今まで築き上げてきた親友という関係を、壊したくなかった。
だからこそ、言えない。
「…そっか……そう…だよな…」
銀時の声が震えている。
「俺なんかと…」
続きを言おうとする言葉を遮るように、俺は…
「っ!」
俺は、反射的に銀時にキスしていた。
涙がはらはらと頬を伝う。
「ん…んん…」
触れ合った唇は、とても温かくて…
「銀時…好きだ」
俺はその華奢な体を、思いっきり抱き締めた。
10年間封印してきた叶わない願いは…今、叶った。
「俺っ…俺も好き…っ」
そうして、俺はもう一度甘くて苦いキスをした。
あのBL本に感謝しながら、俺たちは幸せを噛み締めていた。
おまけ
「そういや、結局あの本は何だったんだ?」
「さぁ…なんだろう…」
「あ、二人ともおはようございやす」
「おはよ」
「よォ、総悟か」
「朝からラブラブですねェ…」
『は?』
「俺のお陰でさァ、感謝しなせェ」
「え、え?総一郎くぅぅぅん!!?」
「おまっ…総悟ォォォ!!!」
「作戦大成功でさァ」
「そーアルな!でめたしでめたし!」
「さ、チャイナ。今度は俺との関係を築き上
げていかねェかィ?」
「何言ってるアルか、キモい……そーごなんて大嫌いヨ」
「ふん。ぜってー落としてやるから覚悟しとけよ」
「その前にお前の首を落としてやるから遺言残しとけヨ!バカ!」
END