小説

□右手に忠誠 左手に愛を
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右手に忠誠、左手に愛を
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高熱にくらくらする

疱瘡に侵された梵天丸の耳に届くのは、母義姫と父輝宗の悲壮感漂う声と自分の苦痛に漏れる声

「梵天丸!しっかりするんだ!」

「梵…!誰か…誰か…この子を助けて下さい…どうかっどうかっ…!」

疱瘡にかかってしまえばそれで最後…ほとんどが命を落としていた

だがしかし、梵天丸は3日後にただ一つの傷を残し、回復に至っていた


誰もいない部屋に一人梵天丸は立ち尽くしていた

右目には包帯が巻かれており、隠れている眼球は後遺症により失明し、酷く膿み始めていた

「っ…いたっ…」

時折襲う鋭い痛みに息を詰まらせ、包帯の上から押さえる

その時、戸一枚隔てた廊下から家臣達の近づいてくる声が聞こえた

「…やはり、伊達の跡継ぎは弟の竺丸様か…」

「片目じゃこの世のことも半分しか見えぬだろう…世継ぎ失格だろうな…」

(どうして、僕は何か悪いことをしたの…?父上…母上…)

唯一見える左目の景色が滲んでいくのを袖で拭うと気分を入れ替えるために家臣達が通り過ぎてから戸を開けた

しかし、空はどんよりと暗く今にも雨が降り出しそうだった

「…ぁ、母上!」

家臣達とすれ違って義姫が来るのが見え、梵天丸は小さく笑い嬉しそうに呼びかけ、近寄ろうとした…が

「っ…!近寄らないで!!あなたみたいな醜い子なんか私の子じゃないわ!!」

愛する母の口からでた言葉は梵天丸を否定するものでしかなかった

「…はは…うえ…?」

「近寄らないで!汚らしい!!」

義姫は後退ると来た廊下を引き返していった

拭ったはずの涙が梵天丸の頬に流れた

空からは案の定、雨が降り始めていた








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