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□歪みましょう、一緒に
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彼の煙草の匂いは確かに甘かった。桜を見つめながら金木犀の匂いを思い出すように霞みがちな記憶を辿る。そして最近、束縛が強くなった彼を―……十四郎を頭に浮かべる。



「名無しさん…!待ったか?」

「ううん、今来たところ!」

「そうか。今日はどこへ行きたいんだ?」

「うーん……あ、昨日、銀ちゃん家に忘れ物しちゃったから寄っていい?」

「は?」

「あっ!ごめん違うの!!昨日、神楽ちゃんのお誕生日会があって…それで…っ…!」



ほんの少し前までは、お互いを思いやり、許し合いながら愛を育む普通のカップルであったと思う。けれどそれは確かに彼の変化と共に変わってしまった。次第に滲みはじめる愛情表現。



「おい、今日はやめだ」

「……え?」

「気分が乗らねェ」

「……あ…」

「帰るぞ」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!!」

「早くしろ、行くぞ」

「…!!!!」



もう今日はおしまいだ。こうなってしまったら彼の暴走はとめられない。浅はかな自分の言葉を強く後悔しながら、空っぽな気持ちで腕を強く引く彼に連れられる。壊れるのは簡単、直すのは困難。嗚呼、あまりの脆さに笑ってしまいそう。綺麗な頃の貴方を覚えていたら尚更のこと。



「俺は常日頃、他の男の所へ行くなと言っていたはずだ。名無しさん…お前のせいで全てこうなったんだ。お前のせいで…」



車に無理矢理連れ込みエンジンをかけながら彼は言う。私のせいなのだと。何度も何度も。私は前を向いたまま視界のすみに映る雀を何の感情も篭らずに見る。絶望との付き合い方は案外簡単なものだ。それに気付いたのはつい最近のこと。



「おい……名無しさん」

「…………」

「……名無しさん!!」

「なに、十四郎…」

「今後一切ひとりで外に出るな。外に出る以外は俺の家にいろ」

「私の借りてる部屋は…?」

「俺が手続きしとく」

「…………」



煙草に火をつけながら言う彼は当然のように私の部屋を売り払うつもりだ。ああ、なんて興ざめなのかしら、無駄な時間をありがとう。そう小さく呟いた私の肩が、震えていた理由を貴方は知らない。

















歪みましょう、一緒に




















「…名無しさん……。心も俺のもんになってくれ…頼むから…」




苦しそうに胸の心中を吐き出す彼はハンドルを強く握りしめて俯く。あなたが私を過去と呼ぶ日が来るのなら、あたしがこの世にいない時だといいのに。






End,

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