他版権物
□繊細な芸術は誰の心にもある
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「クロードさま!見て下さい!」
「どうしたんだ、湯音。」
「これ、ビー玉という物です。綺麗でしょう?」
「日本にもこんな綺麗な物があるんだな。」
「よく姉とこれで遊びました。子供は皆これで遊びます。」
「これで遊ぶのか?何と言うか日本は洒落てるんだな。」
「パリだって綺麗な物たくさんありますよ!」
ロアの歩廊――ギャルリ・ド・ロアはいつものようにゆったりとした時間が流れていた。その下町アーケドの一角には「ロアの看板店(アンセーニュ・ド・ロア)」に鉄工芸品を所狭しと並べられ、胸を張るように誇らしげに輝いている。そこは湯音(ユネ)が長崎からパリに奉公してきた店だ。客はあまり満足に来ないが、それなりに信頼と実力を認められている。隠れた名店といったところだ。
「クロードさまお腹空いてませんか?」
「なんでだ?」
「アリスさまのお姉さまがこの間チョコをくれたんです。食べましょう!」
「アイツから貰った物か……。」
「どうしました?お気に召さいませんか?」
「いや、なんでもない。いいぜ、食おう。」
「はいっ!」
クロードは事故で亡くなった父の跡を継ぎ三代目店主となった。初代店主――クロードの祖父・オスカーは放浪癖があるためあまり店にいる事はない。なので湯音が店番をしてクロードは何か問題がないか彼女を見守りつつせっせと鉄を打っている。たまに休憩がてら彼女の所に行っては他愛のない会話に花を咲かせ、一緒に店番するのがこの店の日常だ。
「うん、美味いな。」
「美味しいです!」
湯音が淹れたコーヒーで喉を潤わせ口の中でチョコが甘くじわじわと広がる。夢中になって手を進めるクロードを見て彼女はくすりと笑う。
「そういえば最近オスカーさまが日本の簪買ってくれました。」
「祖父さんが?」
「はいっ!これです。」
「へー。綺麗だなあ。これなら俺も造れそうだ。今度材料が余ったら造ってやるよ。」
「本当ですか!クロードさまありがとうございます!」
大袈裟に礼を述べる彼女を見てクロードは胸の奥が暖かくなるのを感じた。勿論、この純粋で幼気のある少女に礼を述べられたからだけではない。男には大低の場合他意というものがある。しかし、それを伝えるほどクロードは器用に出来ておらず、物や自分が造り出す鉄の芸術によって自分の気持ちを代弁しているつもりだ。しかし果たしてそれが疎い彼女に伝わっているかどうかは怪しいところだが。
「クロードさまは何でも造れる魔法の手持ってます。魔法遣いみたいです。」
「おいおい、俺はそんな大した奴じゃないし魔法なんて使えないぞ。」
「でも!クロードさまはすごいです!」
少し呆れたを顔して言い返せば彼女はますます意地になりそれがとてつもなく可愛い。自分と喋っている時彼女はほとんど終始微笑みながら目を輝かせる。それが愛しいと思い始めたのはいつの頃からだろう。
「クロードさま。」
「ん、なんだ?」
「ずっと物造っていて下さいね。私はそれ見るのが大好きです。」
「……あ、ああ…。」
「これからもずっとクロードさまのお傍でそうできたら私幸せです。」
とくん、と柔らかく温かな鼓動が鳴る。
この気持ちを伝えるにはまだまだ時間がかかるかもしれない、ひょっとしたら伝える前に彼女は日本へ帰ってしまうかもしれない。
それでも。
それでも、長い時間をかけてこの気持ちを伝えていけばいいとクロードは思った。
繊細な芸術は誰の心にもある
fin,
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