戦国 BASARA
□変わらない予感は続いている
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「半兵衛…大丈夫?一緒にトイレ行ってあげようか?」
「僕の家でなら大歓迎だけど映画館のトイレは無理だよ、名無しさん」
「そっかぁ……心配。あ、急に暗がりから明るい所行くと半兵衛なら頭痛になるよ?大丈夫?」
「目眩がするけど頭痛はしないよ。大袈裟だなぁ名無しさんは。ありがとう」
物語が終盤に向かいハッピーエンドまっしぐら。そんななんとも歯痒い空間に「ごめん…気持ち悪い」と彼が苦しそうに言った。吐くかも、と上半身だけ蹲った。
大丈夫か、死ぬな。
「いつも肝心な時にごめん」
「通路の曲がり角は気をつけてね?人とぶつかったりしたら半兵衛全身骨折しちゃう」
「うん、行ってくる。泣いて帰ってきたらごめん」
「私の胸の中でいいなら泣いてよ」
「無い胸で……その母性はどこからくるの?」
「早く行けよ」
「…うん…行ってくる……」
真っ暗な背中が通路に消えていくのを目で追った。なんだか目がぼんやりする。視線をスクリーンに戻すと主人公の女優が泣いていた。どうやら男と再開できたようだ。隣からズッと鼻を啜る音がした。ちらっと見ると若い女の人がハンカチを目に当てていた。
完璧にいい場面を見逃した。
男と女が抱き合い抱擁しキスをする。あちこちから鼻を啜る音が聞こえる。一旦目を離しただけで集中できない。
BGMの壮大な音色のクラシックと熱いキスが頭を通り過ぎていく。
しょうがない。
私は席を立った。隣の客が欝陶しそうに私を見ていた。
「名無しさん!」
トイレ前の通路にもたれて半兵衛を待っていると手をハンカチでふきながら小走りでこちらに来た。こういう清潔感がある所が好き。
「半兵衛!大丈夫だった?」
「うん…まあまあ。それより映画は?」
「うん、もういいや。多分、子供が出来て幸せそうにした場面で終わる頃だよ」
「……名無しさんこの映画ずっと見たがってたじゃんか」
「なんとなく先が読めてたからもういいよ!行こう!」
まあ嘘だけどね。
鋭い半兵衛は私の顔を見てすまなさそうな表情をする。それに気づいてないふりをして半兵衛の手を引いた。
「アイス奢ろうか」
「寒いからいいよ。てかここ、冷房効き過ぎだよね」
「じゃあ、うどんは?」
「食べる!」
「うどんでそんなに喜ぶなんて。なんて安い女だ」
「そうだよ、悪い?」
ニッコリ笑ってやると不意打ちにキスされた。おでこに。可愛いことするな。
「じゃあ僕はステーキランチにする。スタミナつけなくちゃ」
「いいけど、また食べ切れなくて私が食べる羽目になるのはなしね」
「大丈夫」
「そのせいでちょっとお肉ついてきちゃったんだから」
「それも僕が食べるから大丈夫。夜に余す所なく」
「バーカ。変態!」
変わらない予感は続いている
という日常的なのもいいよね。すごく書きやすかった。
タイトルは私が崇拝してやまないバンドのある曲の歌詞から拝借。
何が変わらないかは皆様のご想像次第。
20120624