戦国 BASARA
□愛憎(アイニク)にも、笑顔は席を外しております。
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「さーすけっ!」
「うおっと、ビックリした。名無しさんか。おはよう、どしたの?」
「自転車が登校中にパンクしちゃったの。直してくれない?」
「いいけど……朝どうやって来れたの?」
「元親がバイクに乗せてくれたの!」
笑顔で言う名無しさんにチクっと胸が痛んだ。そうだ、名無しさんは元親が好き。そんな俺は名無しさんが好き。わかってるさ。この関係が不毛なことくらい。
「元親に直してもらえばいいんじゃない?」
ちょっとした意地悪。名無しさんがそんなことできないとわかってるからこそ言える台詞。
「むりむり。面倒臭い女だと思われるもん!」
そんなことないと思うけどなあ。逆に守ってあげたくなるよ。とは敢えて口に出さないでおいた。そんなことを言えば、パッと笑顔になり元親のところに行くに決まっている。意地悪な俺様。奥ゆかしい名無しさんが可愛くて仕方ない。何から何まで不毛な思いだというのに。
「OK、そういうことなら力になるよ」
「本当!?さすが佐助、頼りになる!」
「・・・じゃあ放課後にどこかで落ち合おっか」
「そうだねぇ・・・」
腕時計を見て考え込む名無しさんの髪がさらりと肩に落ち、俺様の心臓はそれだけで煩く騒いだ。それを少しでも抑えようと自らの拳を握りしめたが意味はなく、代わりに壁にゴンと叩きつけた。ほとんど無意識。
「・・・どうしたの。怒ってるの?」
「いや、・・・」
何とも言えない沈黙が流れる。
「・・・怒ってる、と言えばさあ」
「?」
「本当は怒ってるよ?」
「・・・え?」
「なーんてね!」
意味が分からない、という顔をする名無しさんに佐助は自分の口角を無理矢理あげてみせた。それを見て少し困惑気味だった名無しさんは“なんなのよ!”と佐助を不思議がりながら少しホッとした顔になった。
俺様は今日も何故だか泣きたくなるような気持ちをぐっと抑え、作り笑いを振り撒く。
それに気づかない名無しさんが憎くも愛しい。
愛憎(アイニク)にも、笑顔は席を外しております。
End.
これほど無気力で苦しいものはないだろうな。
辛いことも引っくるめてヘラヘラ笑っている佐助が好き。
20110605