ぶん

□一番近く
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「なぁ菊・・・」


「なんですか?アーサーさん。」


「いい加減さん付けやめろよな。お前のが年上なんだし。」


「ふふっ。うちのチームのエースにそんなことできませんよ。」


「そんなこと思ってーねくせに。」


「思ってますとも・・・」


そういって菊から背中を押される。そのあとの言葉はわかってる・・・。
だって約束したんだから。あの時・・・



20年前


ちょっとしたけがで入院していた俺と同室だったのが菊だった。


でも、第1印象はけしていいものではなかった。


難病を抱えているとは知らず、菊の妙に青白い肌と痩せこけた体に不気味さを覚えた。


だが、あいさつのため菊と嫌でもはなさなければならなかった俺は軽い挨拶をする。


「よっ同室のアーサーだ。」


今思えばほかにもなにかあいさつはあっただろうに・・・。がしかしそんな俺に対して菊は笑顔で「よろしくお願いします、アーサーさん。私は本田菊と申します。」と答えた。その笑顔で第1印象なんて吹き飛び俺たちはすごく仲良くなった。


その時からサッカー少年だった俺は外へ出て遊んだことのない菊にサッカーの楽しさや他のスポーツの楽しさを必死に伝えた。幼い子供が説明して理解できるものなんてたかが知れているけど、それでも聞いてくれる菊に伝えたかった。


ある日、珍しく菊から質問してくる。


「私もできるでしょうか・・・・さ・・っかー」


か細く今にも折れそうな声で俺に質問する。


「当たり前だろ。それに菊ができなかったら俺が見せてやる。菊は俺の一番近くで見てればいいし。」


そう自信満々に答えると菊も深くうなずき、笑顔になる。


「では、私が退院したらサッカー教えてくださいね。」


「ああ、約束だ。」


それから俺は菊より先に退院した。退院したあとも何度も菊の元へ行った。


入院しているときは気づかなかったが菊はあうたび衰えていった。


いつのひか菊は病気の悪化により、都内の病院へと移転した。


それから俺たちは全くあっていなかった。正確に言えば、あいたかったがあえな
かったのだ。でも菊とした約束はずっと忘れなかった。いつか会えるときまでと
・・・


それから俺は有名なクラブチームにはいった。自分の夢を実現させたのだ。


そしてある日自分の所属しているチームにサポーターとしてある人がきた。


「こんにちはアーサーさん。」


そこには俺の知っている笑顔をした、俺の大好きな笑顔をした菊の姿があった。


「今までなにしてたんだよ。待ちくたびれたぜ。」


「すいません。でもあなた言ったじゃないですか。一番近くでサッカーみせてや
るって。だから病気なおしてあなたの一番近くでサッカーを見てますから。」


そして現在。


試合前あいつの必ず言う言葉がある。


そしてきょうも・・・


「今日も見てますからね一番近くで」


満面の笑みでそういうこいつのためにも


「あったりまえだろ。勝ってくるからな。」


勝たなきゃいけないんだ・・・。

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