LOOKON

□ぶらっくあうと、
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そう、あれは私が義務教育である中学校生活二年目の最後の授業を終えた帰り道の事だった。

日が沈みかけた西の空はいつもの夕焼けよりも赤く見え、それは何処か不気味さを帯びていた。

その為かどうかは知らないが、せかせかと足早に私の横を擦り抜けて行くサラリーマンや女子高生達。

そんな彼等の様子を横目に私は歩めていた足を遅くした。

目の前にいる小学生の赤いランドセルが日の光に鈍く反射している様に自分が小学生だった頃をふと思い出す。

あの頃は中学生というのはとても大人びて見え、小学生とは何もかもが違う、特別な日常が待っているのだとばかり思っていた。

カーディガンで隠れてしまいそうなほど短い紺のスカートを翻し、友人と和気あいあいと話す姿に憧れに似た感情を持っていたのだろう。

制服、スクールバッグ、ローファー…その全てが輝いて見えた。



が。




その中学生になっても、結局は何も変わらなかった。

一年生は小学生の延長、二年生にはもうその日常が当たり前になっていて。4月からの三年生生活はきっと、受験の二文字に覆い尽くされてしまうんだろう。

喜ばしい平凡、かつ、つまらない日常。





気が付けば辺りは真っ暗になっていて、道には人っ子一人いやしない。私だけがぽつんとその場に立っていた。

無機質な電灯の白い光が浮かび上がり、ぽつりぽつりと道を照らしている。




平凡は大好きだ、何にも変えがたい私の日常だ。それを侵すのは何人たりとも許しはしない。
が、それと同時に私は楽しい事も大好きだ。愉快なことや快楽…自分の欲に素直、だとでも言っておこうか。

だから。今の平凡な日常は私にとって非常に愛おしく、それと同様に非常に憎い。





「ああ、つまらん。」




何か愉快なことでもその辺に落ちていないだろうか。

私の感情を刺激してくれる、何か。

そんな事を考えながら、曲がり角を曲がった瞬間だった。




「トリップトリップトリップ…!」

「………。」





数m先に、空を仰ぎ膝をついて何かを懇願している少女の姿を見つけたのは。









…ああ、確かに言った。

愉快な何かが落ちてないか。確かに言った

お優しい神様とやらが叶えてくれたのかもしれないな、どうぞ愉快な何かですよ、と。

悪いが神様とやら。私は快楽主義者の前に保身的思考…つまりは自分が1番大切なんだ。安全第一。流石に自らを危険に晒してまで快楽を求めたりなどはしない。

だからいくら面白そうだといえ、不審人物には関わりたくない。最近の世の中は物騒だ。危ない思考を持つ人間に近付くのは馬鹿のやる事。生憎だが私はしない。





「神様お願いします!私をトリップさせて下さい!トリップトリップトリップトリップ…!」




不気味な少女だ。道端でやるな。家でやれ。

見た目は普通、寧ろ世間一般で言う可愛いという部類に入るのに、どうも中身はパァらしい。お可哀相に。


出来る限りの距離を置きながら気付かれぬようにそろりそろりと彼女の後ろを通り過ぎようとした。

その時…。





『はいはい良いですよ!のーぷろぶれむ!優しい優しい神さまが叶えたりますその願い!』

「は、」
「え、」


思わず声を出してしまった私と奇人変人不審女の声が重なった。

何だ、今の声。

そう言おうと口を開きかけた瞬間、辺りに目もくらむほどの眩しい光が溢れ、私の視界はシャットダウンされた。














「不思議の国へ」
「二名様ご案内!」



 

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