BOOK(H)

□First
1ページ/3ページ

真っ黒い鴉色の髪の毛はさらさらで艶やかでとても和らかそうだった。こぼれんばかりの大きな瞳は緑色の宝石みたいで、やんちゃ盛りらしく鼻の頭に絆創膏が貼ってあった。
隣でほほ笑む母親とそっくりで、とてもかわいい「女の子」だな、と初めて会ったときにそう思った。
当時、天化は6歳、自分は13歳。青春真っ盛りの、中学生だった。

仕事の都合で都会からこの街へ越してきたばかりの一家族。その子の母親は自分の母親と大学時代からの縁があるらしく、こうして一緒に挨拶に来ていた。
親子そろって玄関から出てくると、母は年甲斐も無く喜んで、小さなその子は人見知りしやすい性格なのか、母親の後ろでこそこそと様子をうかがっている。

そのうち「この子は天化」と背中を押されながら前へ出てくる。同じように俺も「道徳です」とあいさつして、「よろしくね、天化ちゃん!」と、手を差し出した。

けれど、怖がらせないように精一杯の笑顔で言ったはずだったのに、その子の大きな緑色のガラス玉みたいな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれおちてしまった。
慌てて顔を覗きこんだら、ばちん、と鼻に衝撃が走る。鼻にビンタをくらったのだと理解したその頃には、その子は家の中に駆け込んでしまっていた。

「あらあらあら」

天化の母親は対して慌てる様子も無く、ただ俺に「ごめんなさい、あの子、ちょっと乱暴者だから」と言って鼻をさすってくれたのだが。

「あの子ね、女の子に間違えられるのをすごく嫌がるの」
「え…?」

やれやれと申し訳なさそうに笑う母親。
俺の親は、「男の子さんなの!?」と驚いているが、それは俺も同じだ。

あんなにかわいいのに男の子!!?

思えばあれは、人生初めての恋。そう、一目ぼれだったのだが、その思いは一瞬にして会えなく砕け散ったのだった。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ