BOOK(H)

□scheme(2)
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意味の無いまっすぐな針を水面に沈めてからどれだけ時間が経ったのか。
針を沈めている意味も無く、今日一日中、ずっと普賢と世間話や思い出話に花を咲かせていた。
竿を手に持っている事さえ忘れそうになるほどだ。いっそ引き上げてしまえば良かったのにね、と普賢は笑う。

気づけばもう日は沈みかけていて、見上げた空にはかすかに星が輝き始めていた。

「よし、そろそろ帰るか」
「まだ居たいなぁ」
「おぬしは良いが、わしはあの原始のジジィの煩わしい監視があるからのぅ、流石に一晩留守にすることはできんよ」
「一晩も一緒に居てくれるつもりもあったんだ?」
「こっ、言葉のあやだ!」

正直言えば、一晩でもふた晩でも、むしろ普賢の洞府にしばらく泊まり込みに行きたいくらいである。何が悲しくて、よぼよぼの仙人の元、修行に励まねばならぬのだ、と太公望は心の中で愚痴る。

「また遊びにこようね」
「よし、では次はわしが、美味い桃のなっている場所に案内しようかのう」
「ありがとう、楽しみにしてるよ」

惜しみながらも、水面に垂らしていた糸を引き上げる。少しでも普賢と居る時間が長くなればと、ゆっくりと糸を巻き取った。




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