BOOK(H)

□scheme
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腕によりをかけて作った点心。
隠し味に混ぜた1滴の雫。
まずく、ならなければいいのだが、と思いながら味見はしなかった。
温かいそれを皿に並べて、部屋で待つ友人に食べさせたいと、急いでそれを運んだ。

「君は本当に嘘をつくのが下手だね」
「なっ、なんだよ、嘘って」
「君が点心を手作りで用意してることすら珍しいから何かあったのかと思ったけど。ずっと人の顔見ながらそわそわして挙動不審だし。自分は食べないし。そりゃ怪しむよ。これは、道徳が?」

そういって、すでに半分程かじったそれを道徳に見せつけるようにして差し出した。

「…雲中子だ。で、俺が入れた。点心を作ったのは俺だ」
「ふぅん、やっぱりねぇ…。で、黙って私に食べさせようと考えたんだね」
「う…だってお前はこうでもしないと」
「これでも私は今まで一二仙だよ、少しラボにこもってるだけで倒れたりしないよ」

点心に混ぜた一滴の雫は、濃縮された仙桃のエキスに。雲中子に頼んで、更にサプリメントや漢方薬を色々と調合させたものだ。
最近、新しい宝貝の開発とやらで研究室にこもりきりになり、ろくに食事もとらず根を詰めている太乙にその身体を心配した道徳が、こうしてこっそり太乙にそれを摂らせようと目論んだのだ。

そう、彼には彼なりのプライドがあるのか、正面からそれを渡そうものなら先刻のように、「いらない世話だ」と断る。それを見越しての、今回のこの点心、だった。

「…まずかった、か?」
「え、そこ聞くの。おいしかったけど?」

そういって残りの半分にかじりついた。道徳は大きく瞳を見開いて、太乙がそれを食べ終わるのをしばらくじっと見つめていた。

「いったいどんな栄養剤なんだろうね、まさか筋肉だるまになったりしないよね?」
「しばらく食事をとらなくても大丈夫なように…雲中子に頼んだつもりだ」
「へぇ、そうなの」

まぁ、純粋に調合を頼んだところで彼がその通りに作る保障なんてないけどね、と太乙がこぼすと、道徳も「確かにそうなんだが」と言いづらそうにそれを認めた。




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