BOOK(H)

□Flying Disc
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「よーし天化とってこーい!!」

「まかせるさー!!」

青い青い大空に、薄い円盤がきれいな弧を描いて、飛んだ。



「君は、天化君を犬か何かとでも」

道徳が空に放った円盤を追いかけたその背中が見えなくなる。

父親が投げたボールを子供がキャッチするのであればほほえましい。が、人並み外れた腕力の男が全力を持って飛ばした円盤を、天化は追うのだ。犬であっても無理な話ではなかろうか。
太乙は目を細めながら天化が走っていった先を見つめた。

「なかなか楽しんでいるよ?」

「そういう問題じゃないんじゃないかなぁ」

一体あの円盤はどこまで飛んでいったのだろう。空を見上げてふとそう呟けば、遠くから「とったさー!」と嬉々とした声が挙がった。

「コーチー!いっくさー!!」

「いつでもこい!!」

「おりゃー!!」

そうして声がした方向から、先ほどの同じ円盤が空を切って飛んでくる。
道徳は走り出すしぐさは見せなかった。その場にしゃがみこんだと思ったら、突然跳躍して空へ手を伸ばす。

掴むつもりなのか!と太乙は空を見上げた。

「あれ?おおっ、すごいね!曲がったよっ」

「ぐあっ!変化球だと!天化め、成長したなっ!」

「球じゃないし…てかどうと、く!?」


道徳の手は、そのまままっすぐに軌道を描いて居れば確実に、円盤をつかんでいただろう。しかし、それは道徳の手に収まる前にまるで、彼から逃げるかのように、すぃ、と軌道を修正した。

道徳が地面に戻ってくる間のほんの一瞬で、軌道を変えた円盤は、手の届かないところへ飛んでいく。
その時の道徳の目といえば、獲物を狩る獣のそれ。たとえるならそれだ。

いつの間にか手に指の間に挟まれたサンシンテイ。それが風を切る音とともに、円盤を貫き、落下する。
そして気づけば、道徳はとっくの昔にそこに居た、とばかりに、落下した円盤を地上で受け止めた。

「さて。天化―!次はこれを打ち返しなさーい!!」

「ぎゃー!!そりゃないさコーチ!俺っち打ち返すもんなにももっ…だあーーー!!」

「あーあぁ…道徳、うれしいのは分かるけど」

野球ボールを投げた、しぐさはそんな軽々しいものだった。飛んだのは、鉛の玉であったが。
打ち返すもの等持っていない天化は、それでも空を走る鉛玉を追いかける。
天化の悲鳴とともに、ずどん、と鉛玉が地中にめり込む音が、聞こえた。


了。


お互い犬っころみたいにじゃれあうように修行してるといいなぁ。なんて、妄想。
たぶん、太乙さんは保護者的位置。
 

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