BOOK(H)

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武芸や戦士としての資質、誇りを父親から受け継いだものの、その外見はあやかしさえも魅入らせる程に、妖艶であった。
母親譲りの艶やかな黒髪、深緑色の大きな瞳。幼い頃に不慮の事故によって残った鼻の頭の傷もまるで美しさを引き立てるための装飾のようだ。

父は以前にも幾度か、そう本人の前で告げたことがあった。母親と並べた姿を眺め、よく「本当にそっくりだ。」といって笑っていた。

母がまだ、生きていた頃の、話しだった。



「天化、何をしている?」
「スース、あーたこそ、王さまみてなくていいんさ?」

川にかかった橋の欄干から水面をじっと眺めていた時だ。
今は城で武王の執務が滞り無く行われるよう見張りの位置に着いているはずの道士が、ふらりと姿を現した。

「ところで天化、ちと儂に付き合え」
「うん?なんさ、急用?」
「このことは内密にせよ、ここから何里か離れた場所に、仕事で用があるのだ。先方がお前を所望しておるのでな」
「俺っちを?そりゃ一体どんな用件さ」
「さぁのう、わからん。だから儂が同行しようと言うのだ」
「別に、今日は非番だから用はないっちゃないさ。いいさ、わかった。じゃあ馬借りてくるさ。荷物は?」
「いや、大丈夫だ。その日のうちにつく。水と昼飯ほどもってゆけばよい」

太公望はそういって、霊獣の四不象を連れ街の外壁を、越えていった。
いつかどこかで香った、甘い香りを残して。
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