BOOK(K)

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「にーににプレゼントがあるんだ」

そういって差し出されたのは、真っ赤な革で作られた首輪だった。

現在首筋に嵌められているそれは、以前、自分がまだ警察犬であったころに主からもらったものである。
いまだにそれを愛用して普段から身につけてはいるが、しかし年期が入ってしばらく、革に艶が出るどころかそろそろ買い替え時ではないかという程に、痛んでいた。

遥は洋の首筋に嵌められたそれを指でかまいながら、「付け替えて?」と真新しい首輪を洋に押し付けた。

しかし、なんとなく飼い主に対する罪悪感感と、理由もわからず感じるわずかな恐怖から、洋は首輪を外すことに抵抗を示した。

「つけて、にーに、そんなもの、早く外してよ…」

すらり、とどこからともなく取り出された、小振りのナイフ。
それに驚き慌てて弟を諌めようと腕を伸ばすが、遥はその鋭利な刃先を、あろうことか自分の髪のひと房に押し当てた。

「髪の毛切っちゃうよ、にーに?」

何よりも繊細で、最高級の絹糸よりもはるかに美しい白色の髪。毛フェチの兄にはこれほど効果のある人質はないだろう。
遥の思惑通り、洋は顔を真っ青にして、遥に伸ばした腕を下ろす。「にーに?」と問いかけるように呼び掛けると、観念した、と呟いて首輪に指をかけた。
かちゃり、と小さな音がして外れた首輪を、ポケットに押し込む。そうでもしないともう二度と、この首輪を拝めなくなってしまいそうな気がした。

「つけてあげる、にーに」

何も、付けられた首輪がとれなくなるわけではない、弟が帰ったら、また嵌めなおせばいいのだ。それに、考えてもみれば可愛い可愛い弟の頼みでもあるのだ。その髪の毛の命もかかっている。
背に腹はかえられないと、おとなしく首筋を差し出して、新しい首はが嵌められるのを、待った。




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