All R20.
□escape with you
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どうしてお前は。何で『友達』の関係を壊すんだよ。あのままで良かったじゃないか。あのままにしとけば良かったのに。そうすりゃお前は俺に殴られずに済んだのにな。
***
あの日真也が変だった。
「あの・・・おれ、俺・・・」
「どうした?」
「俺・・・」
さっきまであんなにゲームで馬鹿騒ぎしたのに、今は畏まった様に正座して、俯いている。天パの髪のせいで真也の顔が余計見えない。だがチラリと見えた耳は真っ赤だった。
「あの、・・・・」
「ああ?何だよ」
言葉を促してやるが逆効果のようで、真也は一層顔を隠すように俯く。
「黙ってねぇで何か言え」
図体は俺よりデカいくせして度胸と勇気が足りない親友を、俺は軽く蹴った。そんなに痛くも無い蹴りを入れた筈だが、真也はビクっと体を震わす。いくばくもなく真也が口を開いた。
「俺、奈央が好きだ」
声と一緒に顔上げた真也の顔は赤く染まっていて、緊張や羞恥なのか眼は潤んでいた。
「俺が好き?」
「う、うん・・・」
「どーゆー意味で?」
「あ、それは・・・その」
言葉に詰まる真也の顔を俺はじっと見つめた。その目がどんなに険しかったか、半ば混乱状態の真也は気付かない。
「恋愛とか、そーゆー意味で・・・」
顔を茹で蛸の様にした真也がしどろもどろで喋る。頬にはうっすら汗が伝っている。
「恋愛だぁ?」
気になる単語を聞き返した俺の声は、あからさまに不機嫌さを醸し出していた。俺の声に驚いたのか、赤面して俯いていた真也はさっと顔を上げ俺の表情を伺った。
それがいけない。俺の神経を逆撫でてしまった。いつの間にか握っていた拳が、真也の右頬を殴った。
「い゙っ・・・!?」
何の理由も無くいきなり殴られた真也はただ悲痛な呻きを漏らすだけ。右頬を手で押さえ、俺を見上げた。だからそれがいけないんだって。
自分の中で突如として沸々と怒りが込み上げでくるのが分かる。いや、怒りとは全く別のものがはびこっているのか。
そんなのはこの際どうでもいい。ただ真也を殴りたい。蹴りたい。
蹴りと共にガツッと嫌な音を今度は腹に入れてやった。真也の体が床に倒れ、そのまま疼くまる。耳をそばだてれば、真也の呼吸が絶え絶えなのが分かる。
反対に、俺の呼吸は案外安定していて正常だ。息遣いも荒くないし、やはり怒り狂ってはいないようだ。
にしても、何故俺はこんなにも冷静なのか。
呼吸がつらそうな親友を目の前にして。親友をつらい目に会わせたのは自分だと言うのに。
「奈央、ごめん・・・」
蚊の鳴くような声を俺は聞き逃しはしなかった。
「何でお前が謝るんだ?」
「ごめん。ごめん・・・」
「バーカ。殴ってんのは俺だろーが」
今にも泣きそうな真也の前にしゃがみ、親友の顎をわし掴む。痣が出来るであろう右頬をわざと強く押せば、真也は顔を歪ませた。痛そうだな。
「痛いか?」
「っ!う、うん・・・」
「あっそ」
暴力行為にも飽きた。次は何をしようか。ゲームの続きでもしようか。
さっきの衝動で転がったコントローラーを拾う為に立ち上がった俺のジーパンの裾を、真也が震えた手で掴んだ。掴んだだけで何も言わない真也。ただただ俯いている。
「真也、まだ俺が好きか?」
こっちから事の重要部分をえぐってやる。ジーパンを掴む真也の手の力が強くなったと感じた時、真也が俯いたまま答えた。
「奈央が好き」
―あっそ。
「な、奈央は?」
俺が恐いのか質問の声が僅かばかり小さい。
考えるのも答えるのも億劫なので俺は、歩を進めることで真也の裾を掴む手を振り払った。
暫くして、後ろの方で真也の泣きじゃくる声が聞こえたようだが、それはすぐにテレビの音で掻き消された。
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