All R20.
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【playback1】
「ねぇ、新しいボトル開けていい?」
空になったボトルと氷だけになったグラスを見せる。
「いいわよ。ねぇ、亜沙斗、この後開いてる?」
メニューを選んでる亜沙斗(アサト)に、お客が擦りよる。お客の女は亜沙斗の緩んだネクタイをキュッと締めた。
「んっ」
「この後、亜沙斗の体は開いてるの?」
女のふっくらした唇は今にも亜沙斗のそれに重なりそうだ。
「ごめん!今夜は無理!」
「他の人とアフター?」
「違うけど・・・」
「じゃ、何?」
詰め寄る女に苦笑いで応え曖昧な理由を述べた。
「ひ・み・つ」
「ええ〜!んもう、亜沙斗ったらぁ」
亜沙斗は此処ホストクラブ『RIORA』の新人ホストだ。新人と言っても、このキャラクターのおかけで、既に永久指名の客が数人いる。
179cmの長身で図体はデカいものの、中身は馬鹿で子供っぽい。客にはこのギャップが受けているのだ。
「また来てね!」
「ふふ、今度は夜の亜沙斗も指名するわ」
「いやん、エッチぃ」
客が1人帰って行った。だが亜沙斗にはまだ仕事がある。
「ごめん、待った?」
「待った!罰としてコレ一気飲みしな」
「え〜〜」
別のテーブルの客の女に示されたボトルは冷え冷えで、触った指先が凍りつきそうだった。酒に弱い方の亜沙斗が、これを全部に飲むとなると恐らく次のテーブルに行けなくなるだろう。ベテランホストとなれば客の命令でも軽くかわせるが、新人は出された酒を喜んで飲むしか他無い。
「亜沙斗、いきまーす」
「いけいけー!」
周りのギャラリーの声をBGMに立ち上がった亜沙斗はボトルに口を付けた。強めの酒がカァッと喉を熱くする。それに耐えながら、流れ込む酒を体内に受け入れた。
プハッ
暫くし亜沙斗がボトルから口を離した。ボトルの中は空っぽ。視界が一瞬ブレたので、亜沙斗はソファに腰を降ろした。
「良く出来た!」
女は亜沙斗の頭を撫でた。それに亜沙斗は満更でも無い様子を見せる。
だが、大量に摂取したアルコールは亜沙斗の全身を支配していた。顔が赤い。
「俺ね、あろれ、」
「亜沙斗ぉ、何言ってんか分かんないよー」
呂律の回らぬ亜沙斗をキャハハと女が笑う。そこへ「失礼します」とこの店の店長がやってきた。大人っぽい雰囲気がテーブル全体を包み込む。物腰柔らかな雰囲気と薄い唇から発せられる美声。
店長自身も客の相手をするホストなので、ルックスはかなり良い。
「ん?なぁに、如月(キサラギ)さん」
女はチラリと店長である如月の方に目をやる。
「すみません。亜沙斗には今日はもう無理そうなので・・・」
「えー?」
亜沙斗を取られると分かった女は不服そうだ。女は亜沙斗を離すつもりは無いらしい。このままでは酔った亜沙斗が客の前で粗相をしてしまうかもしれない。
だが、如月としても策があった。
「代わりに聖をこちらにつけます」
「んー聖かぁ。しょうがないね、亜沙斗バイバイ」
聖はここのNo.1だ。女は代わりに聖が来ると知るとあっさり亜沙斗を渡した。新人としては有望の亜沙斗でも流石にNo.1の人気には勝てない。
「では。亜沙斗、」
「もう飲めらい」
「立ちなさい」
「ふぁい・・・」
返事をするものの亜沙斗がいっこうに立つ気配がない。立てない、と言っても良いかもしれない。如月は亜沙斗の腕を引くと、店の裏の部屋へ連れて行った。
***
「んぅー」
「ほら、水です」
「あーうー」
部屋に入るや否や長めのソファにダイブした亜沙斗に、如月はペットボトルを渡す。が、亜沙斗は上手く掴めず、それを床に落としてしまった。蓋は開けていなかったのでペットボトルは床を転がるだけ。
「亜沙斗、」
「みず〜みず〜」
取って取ってとばかりに亜沙斗は床に転がったものを指差す。如月は無言でペットボトルを拾い上げた。ご丁寧にも今度は蓋まで開けてやる。
「どうぞ」
「わぁー。ありがとー」
それを亜沙斗に再度渡すと思ったら、
ドボッ
バシャバシャー
亜沙斗の顔に冷水が降ってきた。