作品集

□01.初恋って美味しいの?
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「藤田、」

はい?
名を呼ばれて振り向けばそこには・・・


秋吉玲司(アキヨシレイジ)。


いちおクラスメート。
ぶっちゃけ、呼ばれてビックリ。コイツと話した事ねぇもん。一度も。
つか、俺の名前知ってたんか。そっちのが驚き。

「何?」

あからさまに嫌そうな俺の声。ワリィ、悪気は無いんだ、お前には。あるのはあの女ただ一人。

「藤田、お前、企画書出してないだろ」
「・・・なんの?」

なんかあったか?

「来週にある生徒会の企画書だ」
「あー・・・っと」

あれか。あの紙か。

「今、出せ」
「ムリ」

即答すると今度は秋吉があからさまに嫌そうな顔をした。

「何故だ?」
「書いてねぇもん」

ね?出せないでしょ?

「全くか?」
「全く。一文字も」

秋吉玲司、絶句。表情は全然変わって無いんだけど、言葉発せず。

んじゃ、俺、財布取りに行ってきまーす。

固まっている秋吉を無視して、さっさとクラスに行こうとした。が、それは秋吉により引き止められ、叶わなかった。

「待て」
「ああ?」

秋吉君、僕、急ぎたいんですけど?

「企画書、持って来い。今日中にだ」

はいぃ?

「ねぇ、聞いてた?俺、ゼンゼン書いてな」
「締め切りは今日だった筈だ。書いてないのはお前が悪いんだろ」

あ?

「さっさと書いて、出しに来い。分かったか?」

俺の返答を待たずに秋吉は俺の横を通り過ぎて行く。


って、オイ、待てよ。



「待てよッ!!」

俺の声は廊下に響いた。テストの採点中だ?勝手にやってろ。

「秋吉ぃ、今から書けってムリなんだけど」

俺、キレてます。女の平手打ちくらったばっかなんだぜ俺。イラついてんの。

「なぁ明日出すからよ。それで良いだろ?あ?」
「明日じゃ遅いんだ。だから締め切りが今日なんだろ。馬鹿か」


バ・・・・カ・・・・?


なんで今日は『馬鹿』ばっか言われなきゃなんねぇんだよ?!
そんな事を頭の奥で考えつつ、秋吉の胸ぐらを掴んだ。グッと近くなるアイツの顔。あ、イイ男。
・・・じゃねぇ。

「馬鹿だと?聞き分けのねぇお前が馬鹿だろ?ちょっとくれぇ締め切り延びたって良いだろ?」
「・・・」
「なんか言えよ!馬鹿が!!」

何も言ってこない秋吉に俺は完全調子に乗ってしまった。ベラベラとアイツを罵っていく。

「ああ?センコーに媚びるしか出来ねぇお前がイイ気になってんじゃねぇよ!」

イイ気になってんのはまさしく俺。ちょっと一発殴って脅してやろうと腕を振り上げた。

「い゙っ」

情けない悲鳴。それは秋吉の喉から出たんじゃない。俺の喉からだ。
秋吉は俺の顎を易々と片手で掴み、痣を作った左頬をグッと親指で押してきた。いてぇ!

「い゙だっ!離せッ」
「そのまま俺を殴ってみろ」
「ぐぅ・・・」

親指が痣を押す。皮膚が沈んでゆくのが分かる。

「は、離せよっ!」

痛い!痛い!痛い!
地味に痛い!クソっ!

「ちゃんと今日の内に持って来い」
「紙が無いんだよっ・・・いっ!」

痛くて痛くて思わず目を瞑ると、パッと秋吉の手が顎から離れた。

「・・・あ?」

驚いて目を開けると目の前には紙一枚。

「新しくやるから、ここに書け」

秋吉から手渡されたそれは真っ白な企画書用紙。ヤバい。なんか書く雰囲気になってる。

「コレ貰ったからって俺が書くとでも・・・?」
「書け」

うわっ、命令!低い声がミリョク的。クソォ。

「今日中に出さなかったらぁ?」
「痣がある頬を殴る」

うっわぁ・・・ヒドい。人間じゃないよ。秋吉、そーゆーキャラだったか?

「お前、サド?」
「変な事訊くな」

そう言い残し、秋吉はまたも廊下を歩いて行ってしまった。遠くなるアイツの背中。






なぁ、お前がサドだったら俺は?


その命令口調にちょっとキュンてきちゃったのは重傷?



重傷か。



ときめきってのは、こーゆーの言うわけ?


なら、今のが多分、



俺の『初恋』。










end.
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