作品集

□勉強が嫌。特に英語。
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―お母さん?

多分お母さんだろう。

俺が中2思春期真っ只中ん時に「入るんならノックしろよ」って叫んだあの時以降、お母さんはご丁寧にノックをして部屋に入ってくる。
だから、今部屋のドアの前にいるのはお母さん!

それに、まさか龍治がこの部屋に来るわけが無い。いや、来たことあるけどそれは遠い昔の話。遡れば・・・それも中2ん時かな。ここ4年は俺の部屋に一切来てない。うう、改めて思うと悲しい。

―あと、暴君は律儀にノックなんかしない。

そんな確信を胸に俺はドアを開けた。ドアの前にいる『お母さん』の為。

「ごめ、お母さん気付かなかった!考え事し・・・」


・・・てたー、って言葉の最後を延ばそうとしたがそれは無理だった。
うん、無理でしょ。だってドアの前にいたの『お母さん』じゃないのよ?誰だと思う?




暴君、龍治様。




「リゅじ!どウたの?」

口から反射的に飛び出した台詞の所々は裏返り、龍治の名前さえまともに言えず。
龍治は俺の動揺っぷりにほくそ笑んだ。

「英語、教えてやるって言ったろ?」
「・・・さ、さっき俺、」
「どうせお前、分詞んとこがサッパリなんだろ。教えてやるからサッサととやるぞ」
「あ・・・う、ん」

龍治に見下ろされて余計に言葉が詰まる。そんな俺を気にせず、龍治は部屋に入ってきた。頭を軽く下げドアに頭をぶつけないようにしていた。
俺、そんなことしたことない。

「りゅ、龍治。俺の部屋来んの久しぶりだよね」
「いや、先々週来た」

―・・・は?

「ええェ!!?」
「お前、あん時風邪引いて寝込んでたろ。見舞いしに行った」
「え゙えェーー!!」

俺のけたたましい絶叫に龍治は一瞬眉を顰めた。

「ほら、お前あん時ケーキ食っただろ?」
「・・・うん」
「ソレ、俺が持ってたやつ」

―何ですとッ?!!

俺の好物チーズケーキ。風邪でダウンした時お母さんが持ってきてくれた。確かあれは駅前にある【ラッツェア】の1ピース728円のチーズケーキ。あの時は素直に嬉しくて無我夢中で食べたけど、よくよく考えてみればお母さんがあんな高いケーキを買ってくる筈がない。せいぜい500円台だろうな・・・。

「ほ、ホントに龍治が持ってきてくれたの?」
「ああ、」

素っ気ない返事をしながら龍治は机に無造作に広げられた教科書に目を通す。それから、真っ白なノートを一瞥し溜め息混じりに言った。

「お前、ホントに英語ヒドいな・・・」
「っるさい!」
「こっち来い」
「へ?」

机に手招きされても呆けたままの顔の俺に龍治は舌打ちし、声を荒げた。

「いーから早くここに座れっ!」
「は、ハイッ!」

恐っ!んな、怒らなくてもイんじゃない・・・の?
龍治が短気なだけのか、それとも怒られる事に値する程俺は馬鹿なのか。
考えるのも恐くて、すぐさま机の前の椅子に座った。後ろには龍治が突っ立っていて、もう逃げられない。ある意味地獄。

「じゃあ、まず現在分詞からな」

龍治が教科書に赤いマーカーで線を引く。どうやら重要性の高い内容の所に引いてくれたみたいなのだが・・・。
何が何だがさっぱり。

「ここは、これを使って・・・」
「う・・・ん」

龍治が俺に覆い被さる様に俺の手元を覗き込んできた。背中に龍治のがっしりと筋肉で形作られた胸板を感じる。思わずそっと自分の胸を触ってみたが、自分の胸は堅い筋肉に覆われてはいなかった。・・・ちぇ。

―龍治と俺の違いって何だよ!

育った環境は全くもって同じなのに。
遺伝か?龍治のお母さんはめっちゃ美人。顔は母親似か。身長、体格は父親似だな。龍治のお父さんには滅多に会わないが長身だったのは覚えている。
やはり龍治のあのルックスは親からの遺伝の所為なのか。・・・くそぉ。
そう思うと諦めがつくような、つかないような。

―つかないなー。

遺伝が関係してると分かっていても、龍治のルックスを羨む気持ちは消えない。
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