作品集

□ααα
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「息子さんはどちらに?」

金崎刑事は警察手帳見せると同時に問うた。問われた女性は、わなわなと体を震わせ、目は虚ろだ。

「し、知りません。知りません」

その言葉を繰り返す。金崎は女性を押しのけ、家の奥へ入った。女性は慌てて金崎のトレンチコートを掴む。

「やめて下さい!やめて!やめて!」
「奥さん、令状がありますので」

金崎が胸ポケットから家宅捜索令状を取り出し、女性に渡す。女性はそれに一瞬目をやるが、尚もコートを掴む手を離そうとしない。金崎は女性の手を振り払う様に2階への階段を駆け上がり、最奥の部屋の扉を開けた。

「月尾司!警察だ!」

金崎は叫ぶと共に部屋に入ったが、すぐに彼は眉間に皺を寄せた。
物が散乱した部屋。足下には割れたCDや皿、マグカップ、破かれた雑誌。足の踏み場も無いくらいに物が散らばっていた。

無惨な部屋の中に彼はいた。ライトスタンドが煌々とパソコンを照らしている。緊迫したオーラを金崎が発する中、彼はキーボードをたたく。

「手を止めて、こちらを向きなさい」

金崎の重々しい声は、彼には届かなかった。

「月尾司!!」

怒鳴る様に金崎が名を呼ぶと、ついにキーボードをたたく音が絶えた。

「うるさいよ」

彼―月尾司の口振りは、警察が来たのにもまるで動じない、無関心なものだった。金崎は部屋の中を突き進み、司の肩を掴み無理矢理振り向かせた。

「いてぇなぁ」
「お前が、司か・・・」

部屋から出るのを躊躇う引きこもり、だとばかり思っていた金崎は驚いた。部屋は散々なのに部屋の主は清潔感を保っていた。
髪は肩のほうまで伸びてはいるが、ちゃんと風呂に入っているらしくツヤがある。着用している上下のスウェットも染みひとつ無い。

「なんだよ、おっさん」
司は肩に置かれた手をさも嫌そうに払いのける。

「警察だ。署までご同行頂こう」
「ヤダね」

即答だった。拒否すると司はすぐにまたパソコンに向き直った。

「コイツ・・・!」

司の生意気な態度に痺れを切らしたのは金崎の部下折原だった。

「やめろ」

折原を制し、金崎は司の後ろ姿を見下ろす。暫くして司の方から喋りだした。

「家の令状はあるけど逮捕令状はねぇんだろ?」
「そうだ」
「あっそ、好きなだけ部屋見てけよ」

それを言うや、司はあるキーを押した。

「っ!!お前!!」
慌てて金崎が司を押しのけてパソコンを見るが、画面には訳の分からぬ文字の羅列が素早く流れていく。

「おい!何だこれは!」

金崎は声を張り上げ問うたが、司は何も言わない。折原にも画面を見せたがその時にはもう文字の羅列は終わりかけていた。

ぷつりと文字の羅列が終わった。黒い画面だけが残った。モニターの隣りに配置されたコンピューターも静かになった。

―しまった。

作動しない、もう作動することはないパソコンを見つめ、金崎は下唇を噛んだ。怒った折原は司の胸倉を掴み上げる。

「お前!何したか分かってんのか!!」
「シャットダウンしただけだろお?」
「この野郎!!」
「やめなさい」

今にも殴りかかりそうな折原を金崎が抑えた。折原は悔しそうに司の胸倉を離した。
だらんと伸びたスウェットを直しながら司が、

「もう終わったから行ってやっても良いぜ。『署』に」

回転椅子から立ち上がり部屋の外へ向かう。金崎は半ば呆然としつつもその後を追った。





end.
 

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