作品集
□朝はホットミルク
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AM7:43
からんころん、とドアに付けられたベルが愛らしく鳴った。
「いらっしゃい…」
出入り口の方に目を向けると、そこには真っ白いスーツ、紫のYシャツ。和風の内装の店内に、なかなか不釣り合いな格好の男が来客した。
しかしこれは、いつものこと。彼はれっきとした店の常連客である。
「ホットミルク」
「はいよ」
大抵の客は、今から出社する為に目覚のコーヒーを頼む。だが彼はそんな一杯など必要ない。むしろ求めていない。
既に彼は“勤務先”から帰ってきたのである。と言うのは彼の“勤務先”はホストクラブで、彼はホストなのだ。彼の仕事は夜始まり、朝終わる。
「どうぞ」
「ありがとー」
前夜に体内に取り込んだ酒がまだ残っているだろう。にも関わらず、彼は淹れたホットミルクをゆっくりではあるが飲んでいく。
ちょうど4口飲んだ辺りで彼が一旦飲むのを止め、カップを置いたので、私はある疑問を投げかけた。
「なぁ、腹には酒が残ってんだろう?それなのに何故ミルクを飲むんだ?」
突飛な質問に彼は驚いたのか一瞬目を見開いた。ホストしてるだけあって結構な男前な彼のその顔は、なんだか猫に似ている。
ホストと猫。夜行性と言う共通点が余計に似ている様に思えてならない。
「これ…」
置いたカップを再び掴み、自らの顔の高さぐらいのところで、それをひらりと揺すった。
「ホットミルク飲まなきゃ、寝れない」
なるほど、そう言う理由か。ホットミルクはリラックス効果がある、と言う知識は喫茶店のマスターとして知らないわけなかった。
「でもね、」
彼は疲労感たっぷりの顔に微笑みを浮かべた。生意気な顔をしている。
「マスターの作ったホットミルクしか飲まないよ、俺」
end.