作品集
□眼鏡で恋をした
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【眼鏡で恋をした】
My眼鏡強奪(された)事件により、僕の愛眼鏡は青木の手に渡った。
結局、新しい眼鏡を買った。今度は裏側に模様があり、ちょっと今どきな感じ。青木に眼鏡を取られたのは屈辱だが、今の眼鏡に出会えたのは正直嬉しい。
「渡邊くん、眼鏡変えたでしょ?それオシャレだね〜」
「ありがとう」
女子から話し掛けられる頻度が多くなった。以前は勉強の事とか学級長の仕事とか、頼られる事が大半だった。でも今は、『オシャレ』として話し掛けられる。
「渡邊、前は地味だったからね」
「地味ってなんだ地味って・・・」
「ほら、ある意味地味って言うか」
周りの男子達にも好評。予想外に眼鏡チェンジは成果を上げたのだった。
***
「渡邊、これ返す」
「え?」
My眼鏡強奪事件から一週間が経ったある日の放課後。眼鏡を返却してきたのは今回の事件の犯人である青木だった。
「返すから、コレ付けて」
コレ=前の愛眼鏡
―『返す』って言われても・・・。
どうしたものか。さては眼鏡を強奪した事で罪悪感が?
「いいよ。もう新しいの買っちゃったから」
「・・・でも」
「それに、こっちの方が周りから好評だからね」
クイっと新眼鏡を上げて僕が後悔してないのを示すが、青木の表情は曇るばかり。
「どうしたんだよ?」
「渡邊・・・その眼鏡、」
「この眼鏡が?」
僕が促すと、青木がハッキリと、しかも大声で言い放った。
「その眼鏡、渡邊に全然似合わない!!!!」
なんと、まさか。
青木にはこの新眼鏡は不評だった。
「・・・何故?」
「似合わないから!やっぱ、渡邊はこの冴えない眼鏡のがイイ!」
今『冴えない』って言ったな、お前。許すまじ。
「元はと言えば、青木がその眼鏡を取ってったからだろ。だから僕は眼鏡を変えたんだ」
「それは・・・・・」
青木が唇を噛み、俯いて黙る。
僕だって別に青木を責めたい訳では無いが、こーゆー自分勝手な奴には、ハッキリ物申した方が良い。よし、言ってやる。
「君のその理不尽な申し出でせっかく新しくした眼鏡を止めるなんて、僕は嫌だよ」
「ぁ・・・・」
『嫌だよ』と言った時、青木が顔を上げた。
なんて顔してるんだ、青木。驚愕と不安を足して2で割って、さらにそこえ悲哀をおまけした感じの顔。
「・・・,,ん」
「え?」
青木の震える唇から言葉が発せられた様だが、惜しくも聞き取れず、聞き返した。
「ご、ごめん・・・ね」
―・・・!!?
な、な、な、泣いてる?え?え?泣いてるの?
「あ、青木・・・」
「ごめん・・・でも、でもやっぱり渡邊はこっちの眼鏡の方が似合うよぉ」
ズイっと押し付けられる様に渡された、愛眼鏡。青木が泣いたのに呆気に取られていた僕は、思わずそれを受け取ってしまった。
また僕の手に帰ってきた愛眼鏡。
『冴えない』眼鏡・・・。
「ごめん・・・渡邊、」
「別に、いいよ。眼鏡が増えただけだし」
無理にカッコイイ人間を装ってみせた。
何故かって?
青木の泣き顔で狼狽えるなんて、とてつもなく恥ずかしいじゃないか。
「ほら、泣くなよ」
「泣いてないやい!」
イヤイヤイヤ。
ばっちり泣いてんでしょうが。
数分後。泣き止んだ青木が、
「ね、渡邊」
「ん?何?」
「そのダサい眼鏡、早く掛けてよ!」
・・・今、『ダサい』って言ったよな。確実に『ダサい』って言ったよな!
許すまじ、青木!
「そのダサい眼鏡掛けてる渡邊が、世界一カッコイイよ!」
・・・ダサいのかカッコイイのか、どっちかにしてくれ。
end.