作品集

□眼鏡で恋をする
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【眼鏡で恋をする】

学校、朝。

「その眼鏡、マジかっこいい〜」

突然眼鏡を褒められた。顔を上げると、にこにこ笑う青木が居た。

―全然気付かなかった。

無理もない。難解な数式に取り組んでいたことだし。

「どこで買ったのぉ?」
「・・・駅ビルの所の眼鏡屋」
「ふ〜〜ん」

青木。初めて話す奴。青木は隣りのクラスのはずだが、何故ここに?

「青木、」
「なぁに、渡邉?」
「・・・・・」

―何故、僕に話し掛けたんだろう。

それを言えば、この空気が悪くなってしまうのは目に見えている。

「青木、お前、目悪いのか?」
「ぜーんぜん!右も左もA・A!!」

別に視力は悪くは無いらしい。眼鏡願望?

「渡邉さー、ちょっと眼鏡外してくんない?」
「・・・・・」
「うっわぁ!めちゃくちゃ嫌そう!」

嫌に決まってる。高校入学当初から眼鏡は常備着用なんだ。

「外してよ!ね?ね?」
「嫌だ」
「そこを何とか!お代官様ぁ!」

どんなにお願いされてもお代官様だと言われても嫌なものは嫌だ。
ここまで来ると、外さないのはプライドや意地。

「嫌だ」
「嫌よ、嫌よも?」
「嫌のうち」
「えー?!ケチんぼ!」

何とでも言え。僕は眼鏡は絶対に外さない。外す気なんかさらさら無い。こんなつまらない争いをするより、勉強勉強。


「問3は、と・・・」
「ちょ、無視しないでよぉ」

青木がわめく。そんなの無視無視。が、しかし、

―?!!

何かが目の付近をよぎった。反射的に目を瞑り、また目を開けると何故だか視界がぼやけていた。

・・・無い。

付けて無い。

眼鏡付けて無い!

「あ、渡邉、眼鏡取るとイケメンだぁ」

そんな軽い口調の青木の手には、僕の眼鏡。
眼鏡、取ったな・・・?

「よくあんじゃん?眼鏡取ると、あら不思議、なにこの人美形だわ!ってな感じ」
「それは通常の僕が冴えない人間だとでも?」
「うん、まぁ」

否定をしろ。否定を。
この野郎、言いたい放題言いやがって。

「僕の眼鏡、返して」
「嫌だ」
「青木、」
「イーヤー」

形勢逆転、とでも言えば良いのか。今度は青木が嫌々言う。しかも、

「これ、ちょうだい」

とか、ふざけた事を言ってきた。

「ダメだ。早く返してくれ。それが無いと不便なんだ」

眼鏡に手を伸ばすが、青木も逃げるように手を後ろに伸ばす。結局眼鏡を取り返せない。

「嫌だ。眼鏡返さないもんね」

なんてヤツだ!
少しイライラしてきた。こんなやり取りしても埒が明かない!

「青木、そんなに眼鏡が欲しかったら眼鏡屋で買ってこい!」
「・・・それじゃあ、ダメなんだよ」
「駅ビルの眼鏡屋に同じのがあるから、」
「それじゃダメなんだってば!!」

青木がバンっと机を叩きながら、立ち上がった。
・・・なんだ、逆ギレか?

「俺は渡邉の眼鏡が欲しいんだ!」

―ぼ、僕の・・・・?

さすがに驚いた。
青木の表情を伺うと、だんだんに顔が茹でダコみたいになって来てる。
なんなんだ、コイツ。

「だから、眼鏡ちょうだいってば!!」

赤面しながら大声で要求されるもんだから、僕も思わず、

「う、うん、いいよ」

とか承諾してしまった。言った後すぐ後悔して、それを取り消そうとしたが、無理。
取り消す前に青木が嬉しそうにスキップしながら教室から出て行ってしまったからだ。
勿論『僕の』眼鏡と一緒に。

―僕の眼鏡・・・・・。

がらんとした教室。眼鏡の無い僕。遠くがぼやける視界。

なんと言っても屈辱的なのは、

―黒板の字が読めない!

よりにもよって、僕の席は一番後ろ。今日1日どうやって僕は授業を受けろと?

「あ、青木ーー!やっぱ返せ!!僕の眼鏡!!」






end.
 

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