作品集

□近所の薬剤師さん
1ページ/1ページ

【近所の薬剤師さん】

病院から程近い所にある清水薬局。
病院の近くにはたくさんの薬局があるが、駒込家の『行き着け』はここ。

だが駒込家三男は、どうしても『ここ』が苦手だった。と言うか、ここの薬剤師が苦手なのだ。


「今日はどうしましたか?駒込くん」

物腰柔らかな薬剤師、清水だ。甘いマスクはご婦人方を虜にしている。
駒込三男は、スッと医師から処方された処方箋を渡した。

「・・・と、化膿を防ぐのと痛み止め、それにうがい薬ですか」

ふむふむと頷いた後、すぐに棚から薬を取り出してきた。
棚にずらりと並ぶ薬らしき物が入っている小箱には、駒込には全く聞いた事のない名のラベルが貼ってある。

「640円です」

3つの薬の値段を言われて、駒込びっくり。すかさず清水が、

「保険利いてますから。案外安価でしょう?」

考えが見抜かれ駒込の顔がカァと赤くなる。

―はず・・・。

「こちらとこちらは食後30分以内に、・・・・」

一通り薬の説明が終わると、駒込は薬の入った紙袋に手を伸ばした。薬を貰って帰るだけ。

だが、駒込が薬を取る前に清水が紙袋をサッと拾い上げた。

「っ?!!」
「見たところ、親知らずを抜歯したんだね?」
「・・・・・」

図星。駒込の右奥にあった親知らずは今はもういない。抜歯したのだ。

「にしても、薬貰いに来るの遅かったね〜。抜歯したの午前中でしょ。今は午後4時」

だいぶ時間開けたね、と清水がヒラヒラと紙袋を揺らしながら笑う。
駒込はそれを悔しそうに見るだけ。見るだけ。

「・・・痛くて口開けられ無いんだろう?」
「ふ、ぢゃけんッう!」

怒声と共にやって来た痛みに駒込が呻く。その様を清水はせせら笑う。

「はや、く・・・渡せッ」
「食後って言っても、本当に痛くなったら痛み止め飲んでも良いからね」
「だから、それ渡せよッゔぅ・・・・」

薬剤師は薬をくれない。

「抜歯どうだった?親知らずはしぶとかったでしょ?」
「るっせぇ!はや、い゙ッ!!!??」

ぐっと押し黙る駒込の口元から、血が混じった唾液が、ぽたりと床に落ちた。

「駒込くんさぁ、処方箋はすぐに持って来てくれなきゃ困るよ?」

処方できるの今日中なんだからね、と釘を刺す。

「わ、分かってるよ」

素直に頷く駒込に、清水はふっと笑みを零すと、彼に紙袋を与えた。
駒込はさっそくそこから痛み止めを取り出し、水で流し込んだ。

かなり痛いのを我慢してたらしい。口を開けるのさえ渋い顔をしている。

「どうせもう片方も抜くんでしょ?今度はちゃんと、」
「分かってるってば!」
「はいはい」

駒込は清水をキッと睨みつけた。でも薬剤師だって負けはしない。

「今度また遅れ過ぎるようなら、処方してあげないから」

・・・・・・・。

「それ・・・犯罪だろ」
「処方してあげないから」
「犯罪!」
「処方してあげないから」

・・・・・・・・・・・・・・・。

「はっ!ここで処方して貰わなくったて、別のとこ行きゃあいんだよ!」
「それを言われると困るなぁ」
「フン!」

勝ったとばかりに鼻を鳴らす駒込。

「まぁ、また来るとは思うけどね」
「俺は来ねぇって言ってんだろ!」
「駒込くんのお母さん」
「・・・・っ、テメェ」

にこにこ笑う薬剤師は、駒込三男にとっては悪。悪の塊。

薬剤師と駒込三男の戦いはまだ続く。
三男には来月も抜歯があることだし、ね。






end.

――――――――――

※処方期限が医師から決められてる場合。
御指摘して下さった方、ありがとうございます。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ