作品集
□夏休みなのに学校へ
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【ピアス2】夏休みなのに学校へ
姿も見えない輩がミンミンと鳴いてる中、やっと学校に着いた。
―暑い。クソ暑い。
連日猛暑はマジ最悪。
最悪な理由は、もうひとつある。こんな暑い日に登校しなきゃいけないことだ。
「ちッ」
思わず舌打ちしてしまった。舌打ちの対象を挙げるとするならば、やはり暑さ。今にもぶっ倒れそうだ。
だが、暑さよりも、本当に腹立たしいの、実は『自分』。俺自身だ。
こんなクソ暑いのに登校しなければならない理由を作ってしまったのは、俺。
「あれ?一輝、どうしたの?」
ちょうど野球部がいるグラウンド横を通ったら、野球部のマネージャーに呼び止められた。炎天下の練習により彼女もかなり汗を掻いている。
「課題、学校に忘れたんだよ」
課題を置き忘れた自分が憎い。
「マジぃ?あはは、バカ〜」
「・・・っせぇ」
ケラケラ笑う彼女を一蹴し、校舎へ向かった。両側の窓を開け放った廊下は風通りが良く、外とは比べものにならない程、涼しかった。
清涼感を肌に感じつつ、教室へ行き、課題を取って帰ってきた。あとは家に帰るだけだが、
―クソ・・・。
用件を済ましたものの、帰りたくない。今は午後2時ちょっと過ぎ。一番気温が高い時間。
ここで外に出るのは気が引けた。
だが、ここに居てもやる事は無いし、室内の温度に体が慣れてしまったのか、さっきまでの清涼感は殆ど感じられなくなっていた。
―クーラー、クーラー。
どこか冷房の効いた場所を求め、ふらりと校内を探索した。
***
1年職員室。ドアを開けると、むわっと熱気が肌を拭った。中には誰も居らず、冷房が付いていなかった。
「誰か居ねぇのか・・・」
あまりの暑さに頭がヤられたのか、いつも以上に独り言が口から出てしまう。
愚痴を呟いて中に入り、冷房のリモコンのスイッチを入れた。すると冷房が始動し、すぐに心地良い清風が首筋を駆け抜けていった。
「涼しい・・・」
突っ立てるのも億劫で、近くにあったデスクの椅子に座った。くるりと椅子が回る。
座った後、さっきのドアを開けっぱにした事に気付いたが、もう歩くのが嫌なので見て見ぬ振りをした。多くの清涼が廊下に流れて行くだろうが。
―ココ誰の席だっけか?
ふと思ったが、それは一瞬で脳内から消えた。ある意味「頭ん中が真っ白」になったと言っても良い。デスクの上に、俺の興味を引く『物』があったからだ。
ペン立ての隣に無造作に置かれた『それ』。
『ピアッサー』だ。
―あ、あ・・・あぁ・・・!
ピアッサーを見ただけで俺の胸が騒いだ。両耳に開けた無数の穴が疼く。
思わずピアッサーを手に取った。
ボディはベビーピンク。甘美な色。誘惑の色。
―もう1個、穴を開けたい。
―いや、もう2個くらいなら・・・。
―3個ぐらいは大丈夫じゃねぇか・・・。
考えが頭ん中をぐるぐる回る。回る。回った。
「何をやってるんだ?」
突然降ってきたその声に俺はハッと現実に引き戻された。
聴いたことのある声。
よく耳にする声。
俺が意識してしまう声。
「観月・・・?」
いつの間にか俺の横に来ていたのは観月美里。俺んちの簿記の担当だ。
でも、初めは誰だか分からなかった。トレードマークの銀縁眼鏡を掛けていなかったからだ。
―なんでお前が。
そう訊くよりも先に、観月が、
「私は4組の副担だ。だから、一年の職員室に居るんだ」
一呼吸置いて、
「付け加えるなら、高野が今座っている椅子は私の席だ」
「あ・・・!」
デスクの上を見渡す。整頓された筆記用具や教科書と一緒に置かれた、フレームがきらりと光る銀縁眼鏡。