作品集
□人には言えない性癖
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【ピアス】観月×一輝
ピアス、
右耳に6個。
左耳に8個。
右眉に1個。
下唇に1個。
合計16個。
オシャレとかそーゆー訳で付けてるんじゃない。
皮膚に開けた穴に金属を通す、あの感覚がたまらない。
自分でも変態じみているとは思うが、止められない。
増えていくピアスの穴。
多数のピアスに合わせ服も派手にした。周囲の目が痛いくらいに。
でもそんなのどうだっていい。
開けたばかりの敏感な小さい穴に初めてピアスを通した時、体の全神経を駆け巡った、
−快感。
あれが忘れられない。
完全に依存してる。
***
−もう1個、穴開けようか。
3時限目簿記。商業高校で必須の科目だが、先生の話は右から左へ流れてゆく。
「かの・・・、」
−右耳はまだ余裕あるな・・・。
「高野!」
「っは、い」
机をバンっと叩かれはっとした。反射的に発した返事はたどたどしく、クラスの皆がクスクスと笑っている。
「今のところ、聞いていたか?」
「いや、」
平常心を取り戻しいつものように素っ気なく返答すれば、先生ははっと短く溜め息を吐いた。
「一般原則はちゃんと覚えときなさい。テストに出す」
声色の低さと威圧感が合わさって脳髄が震えた。
「今日はこれで終わりにする。予習はしなくていいから、復習をしっかりしときなさい」
先生が話し終わるや否や授業終了を知らせるチャイムが鳴った。
休み時間で騒がしくなると、後ろの席の智が話しかけてきた。
「一輝(カズキ)、ドンマイ!観月(ミヅキ)に当てられるなんてさ!マジウケんだけどー」
「るせぇ・・・」
後ろでギャハハと声を立てて笑う智。その隣の美紀が俺らの会話に入ってきた。
「えー。いーじゃんいーじゃん!あの観月先生だよ!?」
「どこがだ」
「だってイイ男じゃない?ほら、見てよ」
そう言って美紀は教室の前のドアを指差す。指先の方向には観月がいて、生徒の質問に答えている。観月の周りは女子生徒により人集りが出来ている。
「教え方上手いし、スマートだし、あの低めの声が堪んなぁい」
「へー・・・」
「観月先生、27歳で彼女ナシ。お買い得じゃない!」
「美形が27で独り身なんて、どっか欠陥があるんじゃねぇか?」
智が美紀の熱弁に水を差すと、美紀が智を睨み据えた。その美紀の目はまるで噛み付く蛇の様。俺はさっと視線を離し、もう一度観月に目を向けた。
成る程、観月は美形だ。美紀に改めて言われると観月・・・、
―確か下の名前は『美里(ミサト)』だったな。
女みたいな名前。それでも観月は全く名前負けせず男の俺でさえ見とれるくらい綺麗な顔立ちをしている。公務員のくせに見るからに高そうなスーツを身に纏う観月。
「・・・ホント、アイツ教師なのか?」
ポツリと呟いてしまった疑問に美紀が間髪入れずに口を挟んだ。
「そだよ!てか教授みたいな感じ」
「は?」
「大学で講習会?講演?みたいなやってるんだってー。都内の大学からもお誘いかかるらしいよ」
「ふーん」
「それにー・・・」
美紀が次の言葉をもったいぶる。
「何だよ。言えよー」
短気な智が口を尖らせた。・・・なんか、ドナルドダックに似てるな。
「観月先生ね、お金持ちなの!」
美紀がウキウキしながら口に出した台詞はなんとも期待外れだった。
「んなの見りゃあ分かるし」
「元がお坊ちゃまかー。そんで美形とか、マジ世の中理不尽ー」
グダーと机に突っ伏す智に美紀が反論した。
「違う違う。観月先生ぇ教師なる前に建てた会社が成功して、今現在お金持ちなの!」
―・・・へ、へぇ。
口には出さずともかなり感心した。
「1人で?」
「あー・・・友人達と一緒に経営したらしいよ。でも観月先生自身は3年で辞めたんだってさ。惜しいことしたよね、先生もさ〜」
「じゃ高校教師が第二の人生ってこと!?うわ〜俺そんなのムリー」