音色を響かせて
□13.終着
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やさしい想いを抱いた人から死んでいく。
透き通った瞳。曇ることのない瞳。その美しさはさながら硝子玉。落ちれば音を立てて容易に砕け散る。
乾いた甲高い、それでいて細い音。
繊細な音。
小さくても耳にまで必ず届く音。
脆い存在でも、ここにいた事を、ここにいる事を謡っているようだ。
この世は無常也。
それを実感せぬ、例外な者などいない。
―――
私の音色は届いただろうか。
砕ける前に、砕ける音で、おまえに伝えられただろうか。
死ぬためじゃない、苦しむために生きるんじゃないんだよ。
何に於いても辛い時代なのは事実だけど、それでも、私はおまえに笑んでいてほしい。
いつ死ぬともしれないと覚悟はしていたけれど、流石に唐突すぎたかな。驚かせて、ごめんね。
でも伝えたいことはいつもとおんなじだ。
一人で進もうとしなくていいんだ。周りに、もっと頼ってくれればいいんだ。
無力さを知っているのなら、それをただ弱さでなく、人と繋がれる強さとして手を取り合えばいいんだよ。
優しい子達よ。皆と支え合って生きておくれ。
私に残る悔いは側で守れないことだけ。
だから私の分まで、お兄ちゃんに託したよ。きっとおまえを迎えに行ってくれる。
本当は、ずっと、ずっとこれからも側にいたかった。母親とも触れ合えなかった、危ういおまえを皆で守り、育てていきたかった。
だから、信じさせておくれ。これからの、おまえの未来に、私の分まで、おまえを支えてくれる多くの人々が現れることを。その中でおまえが心から笑むことができると。
そう、信じているよ。
―――――――誰より無邪気で、何より純粋な心を持つ、大切な、私のいとしい娘。
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