バーボン
□月に隠れて手軽な殺人
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もう片方の手で、アレイストの胸のあたりを触る。
「ここが、壊れている。わたしの手にはとても負えない」
(けれど、壊したのは、わたしだ。)
「彼はわたしのことを、女神かなにかだと思っているの」
「どこかで聞いたような話だな」
「兄さんとは違うわ。ヴィンセントは本気なのよ。本気で、わたしがヴィンセントを愛していると思っている」
「……結婚したのに?」
「悪魔との婚姻は“契約”……結婚ではないと」
救えないストーカーぶりに、アレイストは目眩がした。そこまで行くと、誘拐や監禁に走りはしないだろうか。
「ヴィンセントはわたしの意思を尊重するというかたちを取っている。けれどあれは脅迫に近いかな」
「脅迫?」
「“私を愛してくれるのだろう?でなければおかしい、君は私を愛してくれるはずだ”…とか。でも、その歪みを生ませたのはわたしだから……」