□そのとき、君は
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帰りのホームルームが終わった後、クラス担任になってまだ数週間の教師が私を呼び止めた。

「課外の選択について進路指導室で話があるらしいぞ、香取先生が」

見た目は老けているのにまだ三十そこそこの眼鏡は、何の疑いもなく告げてきた。


先生の名前が出た瞬間、嫌な予感はしていたんだ。

課外の選択について、なんて。
そもそも、課外なんて受けていないし、受けるつもりもない。

進学は希望しているものの、社会科担当の先生の科目は希望している学部の受験に必要ない。当然、課外も関係ない。

そんな私が、進路指導室に呼び出される理由はないはずなのに。


それでものこのこと足を運んだ私は、少なからず何かを期待していたんだろう。



まだ子供だから簡単に諦めきれない。
それでも諦めた振りをして自分を誤魔化して。諦めきれた気になって。

先生を避けるようになって。
全校生徒と教師が集まる集会や式典でも、先生の姿を目で追わないようにした。
先生の視界に入らないように、その他大勢に上手く紛れた。



後悔はある。


『バレンタイン』なんていう企業の戦略にのせられて、チョコなんて渡さなければよかった。


好き、なんて……言わなければよかった。

好きになんてならなければよかった。

憧れで済ませておけばよかった。

あのときめきを、錯覚だと思い込むべきだった。


 
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